シッターの「正職業化」が議論されている

初犯を可能な限り防ぐため、フランスの保育現場では二人体制を取り、スタッフと子どもを二人きりにさせない取り組みを推進している。また性教育を早期化し、デリケートゾーンの場所や、そこに触れられたら叫んで拒否すると教えるなど、子ども自身が性被害を理解し助けを求められるようにする方策が取られている。

しかし子どもと他者を孤立状態に置くシッター保育では、上記の対策も有効とは言えない。子どもを単独で託しても安心と思えるか否かは、どうしても、シッター個人の資質にかかってしまう。

そこで今フランスで議論されているのが、シッターの正職業化の必要だ。2017年に保健省がフランス全土の保育の質の底上げのために発表した「より良い保育のための全国的大枠」の中でも、保育所・保育ママと並び、個人シッターの質の向上が挙げられた。具体的には養成・研修制度を整備し、ベビーシッターに「保育のプロ」としての一定の自覚と知見、倫理観を植え付ける必要が述べられた。シッターの孤立を防ぐため、すでに各自治体に整備されている保育ママ用の交流ステーションにシッターを招き入れ、相互監視と情報交換の輪の中に組み込んでいく案も出ている。

現在進行形でマッチングサイトや派遣企業で行われている犯罪防止の取り組みを知るために、それぞれの大手3件と業界代表団体に取材申し込みをした。が、どこからも明確な返信は得られず、過半数は無反応を通した。筆者はフランスの保育業界で取材を重ねてきたが、どこも大変協力的で、依頼を無回答で流されたことはほぼない。シッター業界の反応の異様さに、この問題の根深さ・難しさが現れているとも言える。

「犯罪歴確認の制度化」を求める動きが活発になっている

冒頭で述べたように、フランスやイギリスに比べて、この点での日本の法制度は後れているが、問題意識は共有されつつある。政府は6月11日、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を決定した。その中には、性犯罪者へのGPS装置の装着義務づけや、児童・生徒にわいせつ行為をした教員を原則懲戒免職とすることが含まれている。

事態を改善しようと、市民側のアクションも活発化している。7月14日には児童関連職従事者への犯罪歴確認(日本版DBS)の制度化を訴えるため、シッターや教員による性犯罪の被害児童の保護者が、保育関連のNPO法人フローレンスと共に、厚労省内で記者会見を開いた。同様の制度を議員立法で成立させるため、準備を重ねる国会議員の有志連もある。

コロナ禍で親たちの労働環境が変わり、在宅勤務が増える昨今、シッター需要はますます高まると言われている。子どもたちの安全を確保するためにも、ぜひ活発な議論を行い、制度化を推進してほしい。そこでこの記事で取り上げたフランスの例が少しでも材料になれば、幸甚である。

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