「仕事は忙しいし、実家は遠くて帰れないし…」

背景には何があるのか。中国で猫を飼っている若者らに取材してみると、聞こえてくるのは「孤独」「プレッシャー」などの言葉だ。それらの解消を求めて、癒やしや安らぎ、安心感を与えてくれる猫を飼っている様子が浮かび上がってくる。

前述の深圳に住む25歳の女性は、湖南省から広東省にある大学に進学し、そこで寮生活を送った(中国ではほとんどの大学生が寮で集団生活を送る)。3年前に就職し、初めて1人暮らしをすることになったのだが、「仕事がメチャメチャ忙しくて、なかなか友だちにも会えない。実家も遠くて、簡単には帰れない。そんな寂しい生活の中で、かわいい猫を飼って、少しでもホッとする時間が欲しいと思ったんです」と話す。

飼育者の多くが大都市に住んでいる独身の若者であることから、「1人暮らし」も猫を飼うきっかけとなっているようだ。中国では、大都市出身の若者は結婚するまで「実家暮らし」が当たり前だとされている。北京や上海は家賃が非常に高いため、家があるのに、わざわざ家を飛び出して、同じ都市内で1人暮らしをしようと思う理由はほとんどないのだ。一方、地方出身者が大都市の大学に進学し、そのままそこで就職する場合は、必然的に1人暮らしにならざるを得ない。

都市生活のプレッシャーに疲れた若者たち

データにあるように、大都市の単身者の若者が猫を飼っているということは、その多くは地方出身者ではないか、と思われる。

広大な中国で、地方出身者が北京や上海などの大都市で働くことは、日本の地方出身者が東京や大阪の企業で働くよりもずっと強いプレッシャーがかかる。日本には存在しない戸籍問題やそれにまつわる差別などもあるし、前述のように高い家賃も払わなければならない。

上海の単身者用のマンションの家賃は(地区によって多少異なるが)全般的に東京よりも高い。地方出身者の場合、中国社会で必要とされるコネがないケースも多く、何事においても、人一倍がんばらなければいけない、というつらい立場に置かれている。

そうした日常的なプレッシャーに加え、煩わしい職場の人間関係に関わりたくないというところも、おとなしい猫に惹かれ、猫を飼う理由なのではないかと感じる。中国人といえば「アグレッシブ」「アクティブ」というイメージを持つ日本人が少なくないと思うが、昨今の若者は草食系でナイーブな人が多い。

仕事はもちろんしなければいけないが、他人との競争はできるだけ避けて、穏やかに過ごしたいと思っている。結婚や恋愛にも消極的で、ひとりでゲームをしたり、まったり過ごしたりしたいという。