近年流行している小麦使用製品の摂取を制限する「グルテンフリー」もおすすめしません。テニスのノバク・ジョコビッチ選手がこれで健康になったというので一気に火がついたようですが、彼はもともとグルテンを分解・消化する酵素が不足しているグルテン不耐症だったから効いたという話です。一般の人がグルテンフリー食にすると栄養が偏って心臓と血管の病気のリスクが高まるという警告が英国医師会誌『BMJ』にも掲載されています。

サプリや健康食品で免疫機能は上がらない

新型コロナウイルスが感染拡大する以前からこの国では「これを食べれば免疫力が上がる」という特定の食品や、栄養素を含んだサプリメントがテレビや雑誌で紹介されると、ついその気になってスーパーやドラッグストアに走り出す人が多く見られました。私ならそういう人たちにこう声をかけます。「そんなことをして感染リスクを増やすのは愚の骨頂です。やめたほうがいいですよ」。

健康食品を利用する頻度

なぜなら、メディアがどう煽ろうが、免疫力を上げる食品やサプリなどないからです。からだにウイルスや細菌が入ってきて、はじめて免疫システムは機能します。普段の状態では働いていませんから、何かを食べて免疫が上がったかどうかなんてわかりようがない。データがないものを、さも効果があるように宣伝しているだけなのです。

ただし、免疫を落とすほうははっきりしています。サプリメントなどで特定の成分を過剰摂取することです。代表的なのがビタミンAの前駆物質であるβカロテン。いまより中国が貧しかった時代に、βカロテンを与える場合と与えない場合との比較実験を行ったら、与えたほうのがんが減った。それでβカロテンは免疫力を高めてがん治療にも効果があると話題になりました。ところが、その後フィンランドで3万人の喫煙男性を対象に同様の実験を行ったところ、βカロテンを与えたグループは肺がん発生率が18%増加し、総死亡率も8%増えたのです。人びとが豊かになった国では「過ぎたるは及ばざるがごとし」なのです。

これは必須アミノ酸やビタミンにも当てはまります。「健康食品やサプリメントをたくさんとれば健康になる」というのは幻想でしかなく、健康を害する可能性もあるのです。

健康意識の高い人のあいだで人気のある菜食生活も、逆効果です。食事が野菜中心だとタンパク質や脂質がどうしても不足する。そうすると筋肉量が減って体力が落ち、免疫力も弱くなって感染症にかかりやすくなる。現在のような新型コロナウイルスが流行しているときに、栄養不良でいるのは最も危険だと思ってください。