艶っぽく長生きした色男、銀座で暴れ回った豪快な男、北斎のように生きる巨匠――。銀座の街に名を残す文士たちの人生は酒とともに。

艶っぽく酒を飲む男は長生きをする

クラブ 数寄屋橋
黒岩重吾、森村誠一、大藪春彦、柴田錬三郎、松本清張、北方謙三、大沢在昌など多くの作家たちから人気を集めた。著名な政治家、財界人からも支持され、銀座の「文壇バー」としての地位を確立している。
「クラブ 数寄屋橋」園田静香ママ
「クラブ 数寄屋橋」園田静香ママ

酒の種類はいろいろありますが、やっぱり楽しく飲むというのが長生きに繋がるのだと感じております。文壇バーである「クラブ 数寄屋橋」には数々の先生方、歴史に名を残された方々がいらっしゃいました。そういった方々は独特な個性を持っていらっしゃいます(笑)。実を言うと私はお酒を一滴も飲めないのですが、お酒の場を楽しむ秘訣を、先生たちに思いを馳せながらお話しします。

私は故郷の熊本から上京してすぐに、自らのクラブ・数寄屋橋を立ち上げ、いきなりママになり、銀座では珍しいパターンと言われました。知り合いの数も少なく、たまたまオープンする日が文士劇(作家・漫画家たちが本格的な演劇を披露する)の日でした。幸いなことにご紹介もいただき、楽屋へメロンを2つ持って飛び込みました。扉を開けると錚々たる顔ぶれで、圧倒されて下を向いて固まってしまったのですが、そのときに初めて私に声をかけてくれたのが、ベストセラー作家の梶山季之先生(45歳没)でした。

梶山先生は税金を払うために原稿料を前借りするくらいに連日飲み歩いていましたが、粋な遊びをされる方でした。仕事で悩んでいる編集者に、「気が済むなら俺を殴れよ」と言うんです。まさかとは思いましたが、その編集者は本当に先生の顔を殴った。周りは唖然としておりましたが、先生本人は笑っておられました。