堀江貴文が学生に向けたスピーチのすごさ

数学的に伝えている事例を引き続きご紹介します。

ビジネスの世界で結果を出してきた人たちは、本当に「数学的に伝える」行為をしているのでしょうか。

まずはマルチな実業家・堀江貴文氏です。

2015年3月の近畿大学の卒業式における堀江氏のスピーチは、当時、話題になったと記憶しています。グローバル化とは何なのか、これからの時代はどう生きていくことが重要なのか、といったことを熱意を込めて語っていました。次はその一部です。内容の賛否ではなく、あくまで伝え方という視点から見てください。

人間なんて、5年先の未来でさえも予測できません。僕だって予測できません。いまから10年前に、みんながスマートフォンを持って、歩きスマホとかしながらツイッターとかラインをしている姿を想像できましたか? できなかったでしょう? 僕もできませんでした。
だから、未来のことなんて考える意味なんてない。そして、過去を悔やんでいる暇なんて、みなさんにはないはずだ。なぜなら、これからグローバル化で競争激化して(あっという間に世の中は変わっていく=著者注)、そして、未来には楽しいことしかないと思います。それはどうやったら楽しくできるか。それはいまを一生懸命生きることです。

全体的に短文を多用し、しばしば「間」をつくって話をしていました。学生に向けたスピーチのため、わかりやすい伝え方を意識したからではないでしょうか。

引用した部分で堀江氏が伝えたいことは明らかに後半です。その重要な局面で使われているのが数学コトバです。ちゃんと伝えたい。わかってほしい。そんな思いが、話の進行方向を伝える「数学コトバ」になったという解釈は、少々強引でしょうか。

私には、この堀江氏のスピーチが、数学コトバを使って人生の進行方向まで伝えているように思えたのですが。

成功者は数学的に伝えている

続いて東進ハイスクールの現代文講師である林修氏。

実は林氏はもともと数学を教えていたそうです。テレビなどのメディア露出の場でも数学の重要性を説いており、そのメッセージは数学を専門とする私よりずっと影響力があるようです。次は、なぜ林氏が予備校講師になったのかを語ったテレビドキュメンタリー番組での発言です。

深沢真太郎『数学的に考える力をつける本』(三笠書房)
深沢真太郎『数学的に考える力をつける本』(三笠書房)

やっぱりやりたい仕事ではなかったですね。(なぜなら)同級生がみんな官僚とかね、医者だとか弁護士とかでね、特にバブルの時代でね、国際的に派手に活躍しているときに、僕もそれをやろうとして、ことごとく失敗したんですよ。
(だから)僕はね、官僚として出世している連中と自分を比較したときに、彼らのような粘り強さがない。(一方で)キレはあるかもしれないけど、あの粘り強さは僕にはないですね。(だから)そういうところで勝負したら負けるんですよ。

「短文→数学コトバ→短文」という原則どおりに話しています。文脈上は数学コトバを使うべき箇所が4カ所あります。しかし、林氏は数学コトバを使いませんでした。そのかわり、1秒以上の「間」をつくって話しています。

伝える内容を構築するために、考えるときは数学コトバを使う。だが、実際に伝えるときには不要なコトバは発しない。

きわめて数学的な伝え方です。数学的な人物である林氏ですから、伝え方も数学的なのは当然なのかもしれませんが。

数学的に伝えるのがいいのは、聞き手にきわめてわかりやすくなるからです。そして実際、多くの成功者も伝えるべき局面でそれを実践していることがわかりました。

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