そもそも英語に難があるから、向こうで語学学校に1年~1年半通わなければ、大学の授業にとてもついていけない日本人学生も多い。1990年代にアメリカのスタンフォード大学とUCLAで教鞭を執った私が一番心配しているのは、世界各国から集まる学生の中で日本人は全く目立たないし発言しない。60年代にMITに留学した頃は、日本人はそれなりに頑張っていたし、特徴ある学生も散見された。

そういう情勢を踏まえれば、入学時期がずれているのは学力の劣る日本人留学生にとって決して悪いことではない。3月に卒業して4~7月というのは貴重な準備期間であり、身辺整理や語学の勉強に充てられるのだから。

日本に留学するメリットは何もない

また、逆に9月入学になれば海外から優秀な人材が日本にやってくる、という意見もあるが、これまた完全な幻想である。海外の優秀な学生からすれば、日本に留学するメリットは何もない。

アジアの学生について言えば、かつては韓国や台湾から日本にやってくる留学生は多かった。経営者は日本の企業とのつながりが重要視され、子弟を日本流に育てたかったからだ。しかし韓国では金大中キムデジュン政権以降、欧米、英語圏に完全にシフトして日本に留学する学生はほとんどいなくなった。台湾人は義理堅いから親子三代慶應みたいな家柄が今でもあるが、MBAを取るための大学院はペンシルベニア大学のウォートンスクールだったりする。

今どき、日本に来るとすれば中国の学生ぐらいで、欧米の一流大学に合格できず、なおかつ日本への留学で奨学金を獲得できた場合だけだろう。競争が激しい中国では優秀な人材は日本など見向きもしない。眼中にあるのは英米の一流大学であり、次が中国国内のトップ大学。その次がオーストラリアやカナダという英語圏だ。格落ちの日本の大学の卒業証書は出世の妨げにしかならないのだ。

さらに、日本に留学するためには日本語を習得する必要がある。英語圏のインドやシンガポール、香港の学生にしてみれば、英語だけで欧米の一流大学に留学できるのに、面倒な日本語を学ぼうと思う人は稀少だ。台湾と韓国でも日本語を学ぶ人はめっきり減っている。インド人のエリートは一流大学でICTと英語を究めれば、GAFAをはじめグローバル企業から高給オファーが殺到する。将来の出世の役に立たず、日本語学習という面倒がもれなくついてくる日本への留学など頭の片隅にもないのだ。

9月入学に変更すれば大学の国際化が進み、留学が活発化する、などというのは実態を知らない人の言うことで議論自体がナンセンスなのだ。