時間と費用を少なく抑えられる訴訟がある

少額の借金をたくさん作り踏み倒す男の話
【金銭債権のアナ:少額訴訟に応じさせるのがカギ】

世の中には、友人や知人から金を借り、そのまま平気で踏み倒してしまうタチの悪い人がいる。今野六平も、その一人。彼は、ハナから約束の期限に返済しようなどという考えはない。返す意思がないのに人から借金するのだから、その行為が詐欺罪(刑法二四六条)に当たるのは言うまでもない。しかし、借りた金額は、いずれの場合も数千円から数万円までと小さく、また当人に返済の意思がなかったとの立証も難しいことから、仮に被害者から詐欺罪で告訴されても、まず逮捕も起訴もされないはずとタカをくくっているのである。

むろん、踏み倒された被害者の中には、刑事がダメなら、民事で取ってやると息巻き、本気で裁判を考える人もいる。川井正次君も、その一人である。川井君は貸した金を取り戻すことより、何とか、あの今野をヘコましてやりたい。そう思ったのだ。

といって、正式裁判を起こすとなると、時間も費用もかかりすぎる。法律に詳しい同僚に聞くと、「少額訴訟が簡単だ」と教えてくれた。これは、60万円以下の金銭債権を請求する手続きで、審理は原則一回で、しかも即日判決がもらえるのだという。その申立手数料も500円~6000円(請求額による。他に、当事者への連絡用の郵便切手が必要)と安く、定型の訴状が簡易裁判所の窓口にあり、それに書き込むだけとのことだ。

借金踏み倒し男・今野は一枚うわてだった…

川井君は、さっそく最寄りの簡易裁判所に行き、窓口で「少額訴訟の訴状」をもらって必要事項を記載し、申立てをしたのである。やがて、裁判所から裁判期日を知らせる呼出状が届き、川井君は当日、意気揚々と裁判に出掛けたのである。今野が出廷しても(正当理由のない欠席は敗訴)、証拠の借用書があるから負けるはずないと、信じていた。

ところが、裁判に出てきた今野は、いきなり「通常訴訟にしてほしい」と言い出し、それを聞いた裁判官も「では本事案は通常訴訟に移行します」と言って、訳もわからず呆然としている川井君を尻目に、判決も出さずに閉廷する旨を告げたのである。後から、少額訴訟は債務者が望めば、通常訴訟に移行するとわかったが、たった2万円のため、正式裁判をしなければならないかと思うと、川井君は頭が痛い。このまま打ち切ろうかとも考えている。