裁判を起こさず支払督促をする方法もある
【問題点】
少額の借金を取り立てる場合など、60万円以下の金銭債権を請求するには、少額訴訟(民事訴訟法三六八条~三八一条)の手続きが便利だ。費用も安く、手続きも簡便な上、原則一回の審理で通常は即日判決が出る。しかも、一旦判決が出ると、通常訴訟のようにその判決に不服でも控訴はできない。
しかし、この事例の今野氏のように、債務者が「通常訴訟により争いたい」と申述すると、自動的に少額訴訟から通常訴訟に移行してしまうので、彼のような狡猾な債務者相手の場合には、その実効性は薄いといえる。
なお、少額の金銭債権の請求手続きには、この他、支払督促(支払命令ともいう)という制度もある(民事訴訟法三八二条~四〇二条)。債権者は、債務者の普通裁判籍の所在地(債務者の住所地等)を管轄する簡易裁判所に「支払督促申立書」を提出するだけでよく、裁判所はこの申立てがあると、証拠調べなしに債務者に対し「債務者は、請求の趣旨記載の金額を債権者に支払え」と命ずる「支払督促」を送達してくれる。そして、もしこれを債務者が放っておくと、この命令が確定し、判決と同様、債務者の資産に強制執行ができるという簡便かつ迅速な手続きである。
ただし、支払督促は少額訴訟と比べ、申立書の記載が複雑であり、また債務者が「支払督促に対する異議申立書」を出すと、やはり通常訴訟に移行してしまう。今野氏のような相手は、当然この異議申立てをするに違いなく、このような相手には効果は薄いと言えるだろう。
では、どうすればいいか。今野氏のような人は、おそらく他でも、同様な借金踏み倒しをしているはずで、その被害者達が連携して刑事告訴するのが一番だ。たしかに、一件一件の被害額は小さいが、被害者が多数いるということになれば、今野氏が常習的な寸借詐欺の犯人であることが明白になり、「金は返すつもりだった」という弁解も通じない。当然、懲役刑もありうる。