一戸建ての家と現金5000万円を相続予定でも消えぬ不安
まずは、最初に別のFPに作ってもらったというキャッシュフロー表を拝見しました。その内容に特に問題がありませんでした。両親の死後、Aさんがひとり暮らしをして90歳で亡くなるという条件でしたが、90歳時点で1000万円弱の現金が残ることになっていました。
親の相続については、Aさんの姉には、自宅購入時に両親はすでに1000万円を渡し、両親死後の相続時には1500万円の現金を相続するということになっていました。
一方、Aさんは現在両親と住む一戸建ての家(資産価値2500万円)と、姉が相続した分の残りの現金5000万円を相続するという話でした。姉妹が相続する現金計6500万円は、父親がこれから支給される予定の退職金や、これまでの蓄え、さらに今後の生活費を切り詰めてコツコツ貯めていく予定だということです。
このキャッシュフロー表で筆者がチェックしたポイントは次の点でした。
●今住んでいる戸建ての家をAさんが相続する
2年後に住宅ローンが完済するので、Aさんは最期までこの家があるから安心してよい、と親は強調したとのことでした。余裕があれば、Aさんが住みやすいようにリフォームも考える、とも言ったそうです。
●父親と母親(58歳・パート)は、最期まで自宅でAさんと一緒に生活する
両親の介護に関する支出についてはキャッシュフロー表では考慮されていませんでした。介護が必要な場合は、Aさんにお願いするということなのかもしれません。
●生活費は親子3人で月13万円
現在、現役で働く父親の年収は500万円、パートで働く母親の年収は60万円。リタイア後の年金収入は父親月24万円、母親6万円の予定。一方、支出のほうは、現在も、また両親のリタイア後も生活費(住宅ローン返済を除く)は月約13万円とする予定。Aさんがひきこもりの状態であることを考慮し、親子3人で食費4万円とぜいたくとは無縁な暮らしを送っています。旅行や外出、外食もできるだけ控え、父親はお酒をやめたそうです。
●両親他界後の収入は月8万円のみ
Aさんは自宅のほかに現金約5000万円も相続する予定ですが、Aさんの障害年金の収入(1カ月あたり8万円前後)は少額であり、両親他界後(年金収入がない)の生活に関しては少々心配な金額になっています。
以上を踏まえ、筆者はAさんに対して、「90歳近くまで生きるのに、お金が枯渇することはないことは確かで、前任のFPの試算に大きな誤りはありません」と伝えました。ただし、これから話す2つのことが気がかりだとも付け加えました。
●自宅を必ずしもAさんが引き継がなくてもいい
Aさんにとって、自宅があることは安心材料です。しかし、一戸建てはひとりで住むには大きすぎるので、必ずしも自宅をAさんが引き継ぐ必要はなく、むしろ小さなマンションに移り住むことも選択肢としてもいい。
●両親の介護費用は必ずかかる
両親は、今は健康ですが、誰にも必ず老いと要介護のタイミングはやってきます。そのときに、治療費や入院費や施設費用や介護費用がかかるのは明確です。そのため、別資金として残しておくことを考える必要があります。金額は、施設を「ついのすみか」とするかどうか、などによって異なるので、元気なうちから両親に考えてもらったほうがよいです。
ただ、介護費用が発生した場合、相続時にAさんの手元に残る現金はこのキャッシュフロー表より減ると考えられ、最期まで資金が残るかの確認が必要となります。