ウエディング業界から人材が消える日

いま業界が最も危機感を抱いているのが、「ウエディング=不要不急」という結論を下されることだ。

たしかにウエディングは不急ではないかもしれないが、決して不要ではないはずだ。いや、結婚式は必要である。儀式を通じてしか整理できない感情があり、儀式は2人のみならず周囲の人たちにとっても大きな意味を持つ。延期は致し方ないが、中止はせっかくの儀式経験を放棄することになり、その後の家族の心に何らかの影響が残ることは避けられない。結婚式とはいわば、「必要不急」のものではないだろうか。

もうひとつ、ウエディング業界には大きな特性がある。正社員の雇用率が低いことである。披露宴会場で働くスタッフを例に挙げれば、キャプテンやアシスタントと呼ばれる担当者以外は、ほぼフリーランスなのである。

例えば60名規模の結婚式・披露宴の場合。料飲サービススタッフ、司会者、音響オペレーター、ヘアメイクアップアーティスト、着付師、花嫁の介添えをするエスコート1名、フォトグラファー、アシスタント、ビデオグラファー、アシスタント――ざっと数えてみても十数名がフリーランスのスペシャリストであり、社員はわずか1割にすぎない。

ウエディングの現場は、こうしたフリーランスに支えられている。もちろんフリーランスには事務所からの定額の給与支払いはなく、ギャラが支払われるのは仕事が発生した時のみだ。

婚礼の実施がほぼなくなった今、彼らは国からの4000円ばかりの補助で、果たしてこのまま仕事を続けることができるのか? 現実問題として、廃業や転職を余儀なくされるケースは多いだろう。高齢のスタッフは年金生活にシフトする可能性もある。都市部で仕事をしていた人間は、実家を頼って地方に帰ることもあるだろう。

飲食店のキャッシュフローは1.5カ月と言われているが、フリーランスはそれ以下かもしれない。つまり長期的視点で将来を見れば、今は仕事がないが、アフターコロナには深刻な人手不足が待っている。業界にカップルが戻ってきても、ウエディング業界からスペシャリストが消えている可能性があるのだ。

かく言う弊社も、ウエディング業界の得意先への出張訪問や研修はほぼ中止になり、減益は免れない。一方で、試験的に始めたオンラインでの会議や研修では少しずつ利益が出始めている。同時に、ウエディングの知見を伝えるセミナー動画を制作し、得意先に無料で提供することも始めた。社員だけでなく、アルバイトやフリーランスの方々にもご覧いただくことで、「人離れ」の防止の一翼を担えれば、という気持ちからである。

「オンライン・ウエディング」が持つ可能性

明けない夜はない。いつかコロナ禍は終息するだろう。人々は自由に移動し、集い、大声で話し合い、ハグし、握手するようになる。しかし、その世界はおそらく以前と同じものではなく、新型コロナが生み出した新しい価値観の世界になるだろう。

ウエディング業界は、間違いなく少人数化が加速する。今回の自粛生活で、「本当に一緒にいたい大切な人たちは誰か?」という問いを新型コロナは投げかけた。その価値観でウエディングの招待客を選択するカップルも増えるだろう。また、当分はマスクの着用が前提の「ウィズコロナ」のライフスタイルが続いていくはずだ。そうなれば、健康弱者への配慮もあり、ウエディングの人数は相当に縮小されることになる。

一方で、ウエディングにもオンライン化の動きがある。現状では一時的な対応策という印象は否めないが、実はオンライン・ウエディングには計り知れない可能性がある。なにしろ世界を同時につなぐことができるし、100人だろうが1000人だろうがキャパシティーの都合に左右されることなく招待できる。少人数化どころか、オンラインではゲストを無制限に増やすことができるのだ。