東京で一緒に生活する“サイレントキャリア”の存在

もう1つ、別の事例が中国にあります。都市封鎖(ロックダウン)による外出規制が解除された武漢で5月10日、約5週間ぶりに新たに6人の感染者が確認されたことを受け、全市民を対象にPCR検査が始まりました。武漢の人口は約1100万人なので、これは大変な意気込みで行う調査といえます。

現在、約657万人の調査結果が発表されていて、189人が無症状の感染者でした。これは約3万5000人のうち1人が無症状感染者の比率になります。中国の感染者のグラフを見てわかる通り、3月以降、感染は全土でほぼほぼ収束しています。それでも3万5000人のうち1人の感染者が残っている。

日本で同じことが起きると仮定すれば、東京の人口約1400万人のうち、400人ぐらいの“サイレントキャリア(無症状の感染者)”が私たちと一緒に生活していることになります。一見怖いことに思えますが問題はその人数の少なさです。東京で400人のうちの1人と出会うということは、テレビでいつも見かける有名な芸能人と街でばったり出会うのと同じぐらいレアな出来事です。

つまり1つ目の「外出規制が解除された後のクラスター発生のリスク」については、怖がりすぎてはいけないということだと思います。リスクはゼロにはなりません。おそらく小規模な再流行も起きるでしょう。しかし日本の場合はここまで新規感染者数を抑え込んだうえでの自粛解除です。少しのリバウンドでうろたえないことがまずは大事だと思います。

「マスクなし」にストレスを感じる人たち

2つ目に、街中で発生する「いさかいリスク」があります。

緊急事態宣言の期間は、ガイドラインを守って開店している飲食店に自粛を求める「自粛警察」が現れました。今後、段階的に元の生活に戻していこうという新しいフェーズにおいても、社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)やマスクの着用に関する意識の食い違いから無用なトラブルが起きることが予見されます。

自粛期間中、ガラガラの電車の中の7人掛けの座席は1つ空けて座ることがいつからか当たり前になっていました。しかし、通勤ラッシュに戻ればそうも言ってられません。電車の中が極端に混雑すれば自然解決するかもしれませんが、中途半端に混み始めた電車でただ普通に座ったつもりの人が、隣の人から非難されるということが起こる可能性があります。

難しいのはいつまでマスクを着用するかです。これから梅雨の時期に入ってきて蒸し暑くなればマスクなしで外出する人も増えるでしょう。一方でコロナを気にする人はマスクをしていない人とすれ違うだけでストレスを感じます。

このように社会を構成する個々人が異なる意識を持つ部分で必然的にいさかいが起きます。個人としては、外出先で不愉快な出来事に遭遇しないように注意を払って移動する、あるいは自分と異なる価値観を許容できるように意識を変えられるかが問われています。