田代眞人の告発「中国は国家ぐるみで嘘をついている!」
岡田晴恵の師匠、田代眞人はどのような人物なのだろうか。東北大学医学部卒業後、自治医科大学助教授などを経て、感染研に入所。同インフルエンザウイルス研究センター長、WHOインフルエンザ協力センター長、WHOパンデミック緊急会議委員、国際インフルエンザ学会理事などを歴任し、昨年秋には瑞宝小綬章を受章している。
日本にとどまらず世界で感染症の権威として活躍した田代。彼は過去に興味深い“告発”をしていたことが明らかになった。
今から15年前の2005年、当時猛威を振るっていた鳥インフルエンザ感染者数について「中国は国家ぐるみで世界を欺いている」とドイツで告発をしたのだ。その様子は、現地の有力紙・フランクフルター・アルゲマイネでも取り上げられている。
東南アジアを中心に流行していた高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)。告発当時、報告されていた中国での感染者はたったの3人だった。しかし、田代はこれに対して異議を唱えた。
田代氏はWHOインフルエンザ協力センター長。東京の感染研にある彼の研究室は、アジア地域の鳥インフルエンザ調査を行う、国連のアジア窓口の一つとされていた。
同紙によれば、アジアで鳥インフルエンザが流行するなか、田代が中国・湖南省を訪れた際、非公式ながら驚くべき情報を得た。現地の共同研究者から、「中国国内ではすでに数百の人が死んでいる。さらに数千人が隔離施設に押し込められている」というのだ。
中国が公式に報告している数字と桁がまるで違う。この証言をしたとされる関係者はすでに中国当局に逮捕された、という恐ろしい話だったという。もし本当ならば、現地研究者の決死の告発ともいえる。
同年11月19日、この情報を持ち帰り、田代が中国の虚偽を告発したのはドイツにあるマールブルク大学。ウイルス学の権威・ハンス・ディーター・クレンク博士の引退講演によせてこのスピーチを行い、他の専門家たちの度肝を抜いたのだった。
中国はデマだと否定、WHOも根拠なしとバッサリ
告発から6日後、中国当局は声明を出す。中国保健相スポークスマン・毛群安は「私たちが虚偽の報告をしているとの話は、まったくのデマだ」と話したことを中国・人民日報は報じている。
記事によれば「保健省とWHOが検証したところ、湖南省で鳥インフルエンザの調査をしたWHO専門家の中に、日本人はいなかった。何百もの中国人が鳥インフルエンザで死んだという報告は真実ではない」「田代眞人がWHOの専門家として中国を訪問したことはない」と名指しで否定した。
さらに英科学誌『ニュー・サイエンティスト』はこの騒動に触れ、WHOスポークスマンのディック・トンプソンのコメントを掲載。「中国が虚偽を働いている噂に根拠はない」というものだった。
結果的に、デマを拡散したという形になってしまった田代。この件でWHOの職を解かれたということはないようだ。真相は闇のままである。