ついに緊急事態宣言が解除された。日本政府の対応は「成功」といえるのだろうか。新著『サル化する世界』(文藝春秋)を出した思想家の内田樹氏は「日本政府は『成功した』といって、考え方を変えないだろう。だがそれには無理がある。たとえば2100年には日本の人口は4950万人になる。日本人はどこかで考え方を変えなければいけない」という――。

法律や道徳、常識のしばりから解き放たれた人間の攻撃性

——コロナ禍のなか「自粛警察」が横行し、いま社会全体が非常に刺々しい雰囲気になっている現状をどうご覧になっていますか。

思想家の内田樹氏
思想家の内田樹氏

どういう社会状況でも、「ある大義名分を振りかざすと、ふだんなら許されないような非道なふるまいが許される」という気配を感知すると、他人に対していきなり攻撃的になる人たちがいます。

ふだんは法律や、道徳や、常識の「しばり」によって、暴力性を抑止していますが、きっかけが与えられると、攻撃性を解き放つ。そういうことができる人たちを、われわれの集団は一定の比率で含んでいます。そのことのリスクをよく自覚した方がよいと思います。

今回はたまたま「自粛警察」というかたちで現れました。別にどんな名分でもいいのです。それを口実にすれば、他人を罵倒したり、傷つけたり、屈辱感を与えたりできると知ると彼らは動き出します。

そういうことをさせない一番いい方法は、法律や規範意識や常識や「お天道様」や「世間の目」を活性化しておいて、そういう人たちに「今なら非道なふるまいをしても処罰されない」と思わせないことです。

——“正義マン”たちの特徴に、問題の背景にあるシステムへの提言や改善ではなく、個人を叩く傾向が強いのはなぜでしょう。

気質的に攻撃的な人たちは、その攻撃性を解発することが目的で大義名分を掲げているのに過ぎません。だから、最も叩きやすい個人、最も弱い個人を探し出して、そこに暴力を集中する。

現に、「自粛警察」は感染者をスティグマ化することで、感染者を潜在化させ、感染経路不明患者を増やすだけですから、公衆衛生的に有害無益です。