一方で、このワークスタイルが成功するためには、働く人間の意識も改革しなければならない。少なくともいくつかの前提条件が不可欠となるだろう。
まずは個人に創造性があること。変化を肯定的に受け入れることのできる柔軟な思考の持ち主であれば、この仕組みを充分に活用できるという大島助教授に、潮田氏も同意する。
「自由に席を選べ、仕事相手を選ぶということをストレスと感じる人も少なからずいました。何十年も会社からフレキシビリティを与えられないまま、ルーティンワークをこなしていたような人には、この仕組みはすぐにはなじまないかもしれません」(潮田氏)
次に、個が自立し、能動的に仕事を行っていること。自由が与えられるということは、権限が委譲されているということにほかならない。会社の理念を正しく理解し、それに沿った方向で創造性を追求していく力が必要である。ある程度の能力と自信を持った人でないとプレッシャーに感じてしまうのではないかと大島助教授は感じる。
「共有スケジュールで行動を把握されているだけでなく、カメラで仕事ぶりを見られているうえに、ウェブではどんな文書を作っているかまで公開されている。極端にいえば、全員がオンラインで毎日業績を評価されているようなもの。ここまで情報がオープンになると、その人のスキルのかなりの部分が明らかにされてしまう」(大島助教授)
仕事のできない人の隣には誰も座らなくなる事態も起こりうる。そうなれば当人の士気はさらに下がってしまうかもしれない。上司やプロジェクトリーダーがフォローするなど、セーフティネットが必要な場合もあるだろう。
とはいえ、このスタイルにはメリットが多いことも事実だ。たとえば、部署を超えて、仕事ができる人の働きぶりを学ぶには最適の環境だ。企画書等の資料を雛形として使用することが可能となり、また、プロジェクトの進め方、メンバー構成、問題点と解決方法も、オンラインである程度把握できる。1日隣に座って、その人の仕事ぶりを観察することもできる。
「クリエイティブオフィスとは、情報と人の知の共有・創出の場」と潮田氏が言う通り、知恵をビジネスに変えていくための場づくりはここに整えられた。
大島助教授はこの仕組みを「ピラミッド型組織からアメーバ型組織、あるいはネットワーク組織への本格的転換を迫る、非常に画期的な開発」ととらえる。縦へ横へと柔軟に、ヒューマンコミュニケーションが活性化し、積極的に知が交流するこの仕組みは、知識創造の有効なモデルとなることは間違いないだろう。