教員たちの多くはオンライン授業未経験

私が校長を務める宝仙学園高等学校は、東大・京大に必ずしも毎年合格者を出したり、スポーツ強豪校として名をはせたりしているような、いわゆる私立のブランド校ではない。

「知的で開放的な広場」という教育理念のもとに、生徒たちとの信頼関係を大切に、彼らの潜在的な可能性を引き出し、育てていく「フツーの学校」だ。「フツーの学校」ではあるが、教員たちの熱意と生徒たちのポジティブな気持ちによって、一人ひとりが「自己ベストの更新」を目指す文化を共有している学校だと思っている。

2月29日の休校によって、突如、オンラインの活用が始まった。授業、ホームルーム、卒業式、入学式、始業式など初めて経験したことばかりである。教員たちの多くはオンラインの未経験者であり、教員のすべてがネットワークに明るいわけではない。

しかし、新型コロナウイルスの感染騒動によって、保護者の多くが会社勤めの中で、テレワークをされている実態を考えると、私たちの学校もまたオンラインに乗り出さないことには生徒、その保護者からの納得を得られないと考えた。

旗振り役を任命し、教員たちを鼓舞

さて、私たちのチャレンジが始まった。教員たちの得手不得手を問わず、「とにかくやってみよう!」ということになった。こうした場合、誰が音頭を取るか、その推進者、旗振り役は誰かが重要になってくる。その人のパーソナリティーが大切だからだ。

そのお役は、私ではない。教務部長・米澤貴史教員である。彼は、私たちの学校独自のアクティブラーニングである教科「理数インター」を開発した教員でもあった。

彼はネットの活用にあまり自信のない教員に対しても、デバイスに対する恐怖心を払拭し、その教員たちの心情にそって説明してくれるので、いつしか教員たちは「よし、できる!」という気持ちに変わっていった。「これまで実践したことはないけれど、とにかくやってみるか!」と前向きな気持ちになったのである。

もちろん、教員たちがオンライン授業に失敗しても、チャレンジ上等! 失敗上等! のフツーの学校なので、私の顔色を見ながら、アリバイ証明のためカタチだけのオンライン授業をする教員は誰もいなかった。