リーダーやスポーツ選手が大事にする「効力感」
彼女たちの振る舞いの根底にあるのは、強いリーダーシップを持つ人間特有の「効力感」である。効力感はアルバート・バンデューラ(1977)が発表した概念で、内発的動機付けの代表的なものである。具体的には「できると思う気持ち」を持った状態を指す。
最も分かりやすい例がスポーツだろう。多くのスポーツ選手が試合前に「負ける気がしない」と口にする。この状態が効力感を持った状態である。未来に対して自信感を持っているのである。行動をする際に「きっとできる」「乗りこえることができる」等の感情を持っていると、これらの感情がない状態よりも圧倒的に成功確率が高いとされる。つまり、危機の最中に人々がこの効力感を持つと、自らの行動を変えることができるのだ。
効力感は4つの理由から発生する。成功体験を得ること、他人の成功をみること(代理体験)、「君はできる」などと説得されること(言語的説得)、生理的状態が良いことである。
危機対応のリーダーがやるべきことは、部下や仲間など働きかけたい人々に小さな成功体験を多く積ませることである(※)。成功体験を得るには、とった行動のフィードバックを受けることが必要である。具体的な目標を提示し、それを達成して初めて成功体験は生まれる。危機の最中では生き残るために情報共有のスピードが上がり、小さな成功体験を頻繁に感じる機会が増える。やり方によっては通常よりも効力感のサイクルが早く発生する環境にある。
※高田朝子『危機対応のエフィカシーマネジメント-チーム効力感がカギを握る』(慶應義塾大学出版会)参照
やるべきコトの指示が具体的な台湾の例
効力感という視座から女性リーダーたちの対応を考えると、彼女たちが抜群にうまく国民の間に効力感を発生させる対応をしていたことが分かる。全ての国民に効力感を持たせることは現実的でない。しかし、マジョリティーに訴えかけ、行動変容を促すことには成功しているように見える。
優先順位を決め、素早く意思決定と実行をし、その結果を頻繁にフィードバックする。これは成功体験のサイクルを細かく設定し循環させることと同じである。台湾の蔡英文総統は、公衆衛生のプロである陳建仁副総統に毎日の定例記者会見を任せた。彼は記者たちのどんな小さな質問にも答え、同時に台湾政府の対応において現状で達成したことと、足りないことをプロの視点から具体的な数値を出して丁寧に説明した。
やるべきコトの指示が具体的であり、そこに違う解釈が入る余地を作らなかった。国民は、自分たちの小さな我慢や行動で感染者数が減少するという事実を毎日示され、日々の成功体験を積むことになった。