通勤はOKだが、訴訟リスクが高い業種も

休業要請の対象になっていない一般企業も油断はできない。予見可能性が個別の状況で判断されるなら、休業要請の対象外だからといって予見可能性なしとは言えない。例えば同じ空間でたくさんの人が発話するコールセンター業務など、対象外でもリスクが高い業種はある。千葉弁護士は「一般企業も、いまは慎重に考えるべき」と釘を刺す。

「予見可能性は、そのときどのような情報を知りえたかということにも左右されます。例えば3カ月前の段階では、新型コロナはインフルエンザと変わらないとも伝えられていました。その状況で従業員の被害を予見するのは難しかったかもしれません。しかし、いまは感染の危険性が広く認知されています。緊急事態宣言が出ていますから、職場での感染がまったく予見できなかったという主張は一般企業でも通りにくいのではないでしょうか」

マスクせずに会議に出たら出勤停止を食らったケース

安全配慮義務を果たすには、感染を回避するための措置をしっかり講じることも大切だ。職場内でのソーシャルディスタンスの確保や、マスクや消毒液の常備、入室時の検温など、企業が率先してできることは多い。ただし、やりすぎにならないようにうまくコントロールしたい。

「感染防止のためにプライベートにまで踏み込んで何か強制するのは、安全配慮義務を果たすことになっても、労務上の別の問題を生むかもしれません。また、軽い発熱後、すぐに平熱に戻ったのに出勤停止を命じるのもどうか。正当な理由のない出勤停止命令は、従業員からの労務提供の受領拒絶に当たります。出勤停止にするとしても、きちんと賃金を支払わないと、今度はその件で訴えられかねない」

実際にやりすぎと思える事例も現れ始めた。大阪市で専門学校を運営する学校法人では、マスクが買えず、未着用で会議に出席した職員が出勤停止の懲戒処分を受けた。同校職員らの労働組合は「行きすぎた処分」として、法人側に団体交渉を申し入れる事態に発展している。