「3密」対策をしていない職場は訴えられるかも

もちろん職場で感染者が発生したことが、直ちに損害賠償を意味するわけではない。損害賠償が認められるためには、企業側に過失があることが立証されなければいけない。では、どのような場合に過失が認められるのか。労務問題に詳しい千葉博弁護士は、「予見可能性があったか」「回避措置を尽くしたか」が判断のポイントになると教えてくれた。

「『最近、世間でコロナの感染が広がっているから、うちの職場もひょっとしたら』という漠然とした危惧感があるだけでは、予見可能性があったと判断されません。過失と認められるためには、『少し前から職場で発熱した人がチラホラ現れていた』というような具体的予見可能性が必要です。

また、予見可能性があっただけでは過失として認められません。予見可能性があり、なおかつ損害が生じる結果を回避するための措置を企業が尽くしていないときに初めて過失が認められ、損害賠償責任が生じます。例えば換気をしたりテレワークを導入したりするといった『3密』対策をしていない職場で感染者が出れば、回避措置が不十分だったと判断されて損害賠償責任を負う可能性はあります」

休業要請を受けているのに営業して感染したら

感染のリスクが具体的に予見されていて、そのリスクを低減させるための措置を十分に取っていないとき、企業は安全配慮義務違反と判断されるおそれがある。それを踏まえたうえで、具体的なケースについても見ていこう。

まずキャバクラやライブハウスなど、新型インフルエンザ等対策特別措置法で休業要請の対象になっている施設で感染者が出た場合だ。対象施設の多くはすでに休業しているが、一部のパチンコ店は店名が公表されるまで営業を続けていたし、飲食店に対する要請は営業時間の制限どまり。休業要請対象の施設で働く人たちが感染する可能性は十分にある。

そもそもこれらの施設が休業要請の対象になったのは、3密になりやすく、クラスターが発生しやすい空間だと考えられているからだ。ならば予見可能性があり、損害賠償請求のリスクは高いと考えていいのか。

「休業要請は不要不急の業種かどうかも考慮されていますから、休業要請イコール予見可能性ありという1対1の関係ではありません。予見可能性は、あくまでも個別の具体的な状況を見て判断されます。ただ、休業要請の対象ではない施設と比べると、たしかに具体的予見可能性があるとされやすいでしょうね」