テドロス更迭に向けて大きく舵を切ったトランプ

また、中国の人権問題は元々悪名高いものであるが、18年にブルッキングス研究所がまとめた中国の国連における人権問題の戦略に関する報告書によると、近年中国は人権抑圧に関する国際的批判回避や人権問題に関する独自解釈の促進などを積極的に推進するようになったと指摘している。

このまま中国の影響力拡大を公に問題視しなかった場合、西側の自由民主主義国は権威主義国家によって、静かにジワジワと追い込まれたことだろう。したがって、トランプ大統領が強烈な形で国連の中国寄りの態度を糾弾したことは、中国との覇権争いの観点からも、中国の不透明な影響力拡大を阻止する観点からも妥当であり、むしろ過去の大統領が中国に対して甘すぎただけだと言える。

米国のトランプ政権がテドロス事務局長の更迭に向けて大きく舵を切ったため、英国やカナダなどからも賛同する声が上がり始めている。日本でも自民党の一部議員が同事務局長更迭に賛成する動きを見せている。

ただし、実際には中国に隣接する日本の地政学上の立場は複雑なものだ。

日本は態度をはっきりと示さず

安倍首相は記者会見で「日本の分担金は削らずWHOを支える」「問題点があることも事実」「事態の収束後に検証すべき」と回答している。端的に言うと、非常に玉虫色に誤魔化した発言であり、これ以上の厄介事は後回しにする姿勢を示したと言えるだろう。

しかし、今後も米中双方がお互いの息がかかった専門機関のトップを吊し上げあう未来が訪れることは予想される。その中で日本政府も米中の覇権争いの最前線に立つ国として、いずれ旗色を鮮明にすることが求められるようになるだろう。その際、日本政府が取り得る道は三つ存在している。

第一の道は、日本が米国を中心とした国々と歩調を合わせて、国連で影響力を強める中国の影響力を弱めるように動くことだ。そして、日本の影響力がある国連加盟国に対して中国と距離を取るように促すことである。トランプ政権は現状の姿勢を貫くことは自明であり、仮に民主党政権になったとしても中国との覇権争いが激化する方向には大きな違いはないだろう。そのため、中国と敵対することで生じる安全保障面や経済面でのリスクを踏まえつつ、西側の自由民主主義国として筋が通った対応をしていくことになる。