陰に陽に中国の国連における影響力は強める中国

現在、中国は国連の15の専門組織のうち4つの長を手中に収めている。UNIDO(国際連合工業開発機関)、ITU(国際電気通信連合)、ICAO(国際民間航空機関)、FAO(国際連合食糧農業機関)には中国人のトップが存在している。その他の組織も主要なポストに中国人が就任することも多く、陰に陽に中国の国連における影響力は強まる一方だ。そして、この中国による国連での影響力拡大に気が付かないほど米国人は馬鹿ではない。

実際、米保守系新聞ワシントン・タイムズは、2019年8月26日に「U.S. needs to respond to rising Chinese influence in the United Nations」という記事を掲載している。この時期は米中が貿易交渉で激しくののしり合いを展開していた時期であるが、記事内容は中国が国連の重要ポストを奪っていることへの警戒を促す内容となっている。同内容は一部の専門家の間では過去から問題視されてきていたが、同紙に取り上げられることはトランプ政権にとっての世論工作として違った意味を持つ。ワシントン・タイムズは米国共和党関係者には愛読されており、トランプ大統領の執務室にも置いてあることで有名だ。

中国の国連における影響力拡大の勢いは止まらない

ワシントン・タイムズは国防総省に近い安全保障関係のタカ派の人々に近いスタンスを取っており、トランプ政権の対中スタンスを知るには適した情報源の1つである。米国が現在問題視している武漢の生物化学研究所をウイルスの出所と疑う記事を最初に掲載した媒体も同紙である。中国が米国に研究所の調査を許可するはずがないので、その真偽のほどは不明であるが、同紙はトランプ政権が保守系の対中世論に関する観測気球を上げる役割の一部を果たすことがあると見て良いだろう。

トランプ大統領が国連の専門機関を批判する態度を見せると、すぐに自国優先主義とレッテルを貼る人々も少なくない。そして、国連における米国の地位の低下と中国の影響力拡大を懸念する話が語られることは最近のお決まりのパターンだ。

しかし、中国の国連における影響力拡大は米国大統領が誰であっても変わりないものだ。中国人が国連専門機関のトップに最初に就任したのは、07年WHO事務局長である。そして、上述のように13年UNIDO、15年ITUとICAO、20年FAOのトップが中国に奪われている。中国は米国大統領がブッシュ、オバマ、トランプの誰であってもお構いなしというのが実際のところだ。