トラブルがあり、駅のお店に助けを求めたが…

当たり前のことだが、東京メトロの各線は1年365日動いている。必然的に、セルビスも年中無休である。

トイレ清掃を担当する日は朝7時に出勤し、それ以外の日は8時半に出勤する。退勤は17時半。1日に1つの駅だけ担当することもあれば、午後から別の駅に応援に行くこともある。昼食は明治神宮駅構内の詰め所で、清掃スタッフ全員が集まって食べる。

「嫌いな人はいなかったから、仲間には恵まれたと思います。お昼もワイワイできて楽しかったですね」

メトロセルビスの最年長社員、畠山敬子さん
撮影=永井浩

10年間のセルビスの仕事のなかで最も印象的だったのは、某駅のトイレを清掃中の出来事だという。その日、女子トイレの清掃に入ると、個室の中から中年らしい女性が声をかけてきた。

「お掃除の方ですかという声がしたので、そうですと答えると、下着を汚してしまって外に出られないから買ってきてくれませんかというんです」

たまたまその駅には下着を販売している店があったので、畠山は掃除を中断してその店に走った。財布は持っていなかったが制服を着ているし、胸には社員証がある。信用して下着を渡してらえるものと思った。だが……。

「後で必ずお客様を連れてきてお金を払ってもらうからと言っても、お店の若い女性はダメだと言うんです。お客様を待たせているし、困ってるだろうなと思って、あのときは焦りました」

楽しみはひとり、ファミレスでランチをすること

何度も頭を下げた末にようやく承諾してもらい、下着を渡すことができた。畠山はほっと胸をなでおろした。

後日、件の女性がお客様センターに感謝の電話をしてきたためにこの出来事は会社の知るところとなり、畠山は表彰を受けることになった。

「そのほかで覚えているのは、小学校高学年ぐらいの男の子がお母さんと一緒にトイレに入ってきて、お母さんこのトイレきれいだねと言ってくれたことですかね。やっぱり、自分がやった後はきれいだって思われたいから、手を抜くことはできませんね」

メトロセルビスの最年長社員、畠山敬子さん
撮影=永井浩

週に2日の休日は何をしているのだろう。

「ひとりでファミレスにランチを食べに行くんです。ランチを食べながら、置いてある雑誌を読みます。昔は友だちとカラオケに行ったり旅行に行ったりもしましたけど、この年になるとお金を使わせちゃ悪いからね」