単体の製造業に依拠するだけでは、もはや世界で戦っていけない。資本の組み替えを行うと同時に、世界水準を遥かに凌駕する現在の日本の製造業のノウハウを、一気貫通の「システム」として世界に売り込む必要がある。

例えば、東京都民の水を賄う東京都水道局の漏水率は3%にも満たない(世界大都市であるロンドンやニューヨークの漏水率は10%をはるかに超す)水準を誇る。同様に、世界的に高い評価を示す原子力の分野において、日本のプラントメーカーや電力会社の持つ管理、運営能力などは世界に十分通用する高付加価値な“商品”である。中でも、日本が目指すべきシステム輸出の中核と位置づけられるのが原子力である。

冒頭に戻ろう。首相官邸に電話で念押しをする一方、今井が足を運んだ先は、“影の総理”といわれる仙谷由人官房長官。仙谷に菅への会談での振り付け、最終的なダメ押しをしてもらうためだ。

鳩山由紀夫内閣で国家戦略担当大臣(1月7日以降)を務めた仙谷は、システム輸出、中でも原子力戦略について当初から積極的であった。その左翼的な体質がたびたび指摘される仙谷であるが、ある種、仙谷の真骨頂はその徹底したリアリスト思考にある。仙谷は、日本経済の優位性がどこで、どの分野が世界で勝負できるのか、はっきりと理解していた。

米、原発建設再開。政府が融資保証(AFLO=写真)

米、原発建設再開。政府が融資保証(AFLO=写真)

1979年の米国スリーマイル島事故、86年に旧ソビエト連邦(現ロシア)で起きたチェルノブイリ事故などで、世界での原子力発電所の新設はほぼ凍結されていた。まさに原子力冬の時代。その時代に、終わりを告げたのが米国のブッシュ政権だった。05年、ブッシュ政権は電力会社への原子力発電所建設への補助金制度を含めた包括的なエネルギー政策を発表。世界的な環境意識の高まり、地球温暖化対策、原油価格の高騰などを背景にした米国のエネルギー政策の大転換に伴う動きは、瞬く間に世界中に広がった。

10基単位で導入を明らかにしている中国、インドなど、電力需要が旺盛な新興国ばかりか、中東諸国、南西アジア諸国、そしてこれまで原子力の新設を凍結していた欧州の英国、ドイツなどでも新設計画や凍結解除が発表されるまでになっていった。25年までの市場規模は170兆円を超えると見込まれている。まさに原子力ルネッサンスの幕開けである。(文中敬称略)

(的野弘路、AFLO=写真)