アラビア半島・アフリカ・西アジアで「サバクトビバッタの大発生」という新たな危機が生じている。おびただしいバッタが大地や空、田畑を埋め尽くし、農作物や牧草などすべてを食べ尽くす「蝗害(こうがい)」だ。巨大な群れ(スワーム)は、東京ドーム386個分に1120億匹。その密度は「4畳半に4万超」というすさまじさ。コロナ禍で貧困化した地域の食糧を食い尽くし、世界飢餓を引き起こす恐れがある──。
大発生の起点は2年前のサイクロン豪雨
今回のサバクトビバッタの発生の始まりは、2年前にさかのぼる。2018年にアラビア半島南部に発生したサイクロン豪雨が引き金となり、イエメンとオマーンの国境辺りにバッタが大発生した。翌年夏に、バッタの群れはサウジアラビアと紅海を超えてスワームを形成し、アフリカのエチオピアやソマリアに飛んだ。
2018‐19年にかけて、ソマリアではサイクロンが何度か起こった。あとには広大な草原が現れ、豊富な草を食べたバッタがどんどん増えた。そして大発生が生じ、今年になってそのバッタのスワームが西はアフリカ内陸部へ、東はパキスタンとインド方面へと飛来し、拡散している。
目黒区内に1120億匹のバッタがあふれる事態に相当
バッタの大発生は、歴史的に頻繁に繰り返されてきた。スワームの大きさは1806ヘクタール(18.06平方キロメートル)を超えるという記録もある。今回の大発生はこれに匹敵する規模だともいわれている。
この規模は東京ドーム384個分、渋谷区や目黒区ならすっぽり包まれる。そこに1120億匹の黒いバッタが襲来する様子を想像してみてほしい。平方メートルあたりに6202匹、4畳半だと4万を超えるバッタがうようよと群れる計算になる。
サバクトビバッタの大発生は、いまに始まったことでない。大昔より、数年から数十年単位で大発生を繰り返している。文字として残されたもっとも古い記録は紀元前1000年ころに編纂された旧約聖書「出エジプト記」までさかのぼる。
1931年にアメリカの小説家、パール・バックが書いた『大地』にもイナゴの大群が飛来して、またたく間に田畑を食い尽くしてしまう情景の描写がある。記憶に新しいところでは、1986‐89年と2003‐05年に、アフリカから西南アジアにかけて大発生したサバクバッタの大群のニュースがある。