次に利益率だ。図9によると、個人開業と医療法人では利益率に大きな開きがあるように見えるが、医療法人の場合、院長の収入が法人からの給与として経費部分に入っているため利益は少なくなる点に注意だ。厚生労働省が2017年に実施した「第21回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」によると、医療機関の利益率は科目別にかなりばらつきがあり、最も高い耳鼻咽喉科は41%、最も低い産婦人科は15%。利益率を見ると、歯科は突出して高くも低くもない。

歯科医師数予測/患者数予測

最後に、図10と図11が10年後の歯科医師数と患者数の需給予測だ。予測値の算出にあたっては、厚生労働省「平成30年(18年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」などを使用した。30年時点の24歳から41歳までの歯科医師数のシミュレーションは、18年時点の医療施設に従事する歯科医師数が維持されると仮定した。29歳から41歳の歯科医師数は、歯科医師国家試験の合格者数が大幅に増減しないことを前提にしている。42歳以降の歯科医師数のシミュレーションは18年時点の歯科医師数がそのまま移行すると仮定した。歯科医師の年齢の上限は98歳とした。なお、死亡率は加味していない。

歯科医院数は減少する可能性が高い

以上の設定において予測を行うと、30年時点の歯科医師数は11万8400人程度となり、現在よりも1万6600人程度増加する可能性が高い。一方、24歳~65歳の「現役」と考えられる世代の歯科医師数は、18年時点で8万5066人なのに対し、30年時点では7万2000人程度に減少すると予測され、実質的な歯科医師の供給数、あるいは歯科医院数は減少する可能性が高い。

つまり、65歳以下の歯科医師数が減少し、65歳以上の歯科医師数が増加すると考えられる。24歳~40歳までの勤務医層・開業医層の歯科医師数は現在よりも減少するため、勤務医採用の難化と開業数の減少が予測される。開業数が減ると、医院1カ所あたりの患者数は増加するが、保険点数の削減傾向、労務費の増加により、利益は減少すると予測され、経営が容易になるわけではない点には留意が必要だ。

患者数実績において、15年から17年の2年間の減少率は98.85%。仮に今後、2年後の患者数が98.85%の割合で減少すると仮定すると、30年時点では、125万人程度と予測される。

患者数より現役世代の歯科医師数のほうが減少率が高い分、競争環境の厳しさは緩やかになるかもしれない。ただ、先述した通り利益の減少が予想されるため、患者を集めやすくなることが利益の増加につながるわけではない。

松谷直樹(まつたに・なおき)
船井総合研究所
歯科医院コンサルティング歴15年。開業クリニックから日本有数規模の医療法人グループまでコンサルティングを行っている。歯科医師会、各種団体での講演実績も多数。部門内には一般歯科から訪問歯科、財務、労務、採用、海外まで分野別歯科コンサルティングの専門家30名が在籍。
 
(図版作成=大橋昭一)
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