最近の過労自殺・精神疾患に関する裁判事例

最近の過労自殺・精神疾患に関する裁判事例

職場におけるメンタルヘルスが問題になって久しい。09年度の精神障害などの労災請求件数は1136件で前年度に比べ2割以上増加し、厚労省は09年の自殺やうつ病による失業などによる経済的損失額は約2.7兆円にも上るとの推計を発表している。

富士通四国システムズに対して慰謝料を求めた中原さんの裁判は、うつ病の発症は業務に起因するとして会社に約140万円の賠償金を支払うよう命じる判決が09年に確定しており、労災申請も認定された。

一方、東芝を相手取った重光さんの裁判は、やはりうつ病の発症は業務に起因するとして解雇無効を認める判決が08年に下されたが、会社側が控訴し現在も争われている。また、労災不支給取り消しを求めた行政訴訟は09年に勝訴し、労災が認定されている。

なお、会社側にも取材を申し込んだが、富士通四国システムズは「裁判が終わり、これ以上お話しする材料がない」と拒否、東芝からは期日までに返答がなかった。

この2つの事例に共通しているのは、長期にわたり長時間労働が続いたことと、著しく体調を崩した後も上司に仕事を割り振られ、ますます体調を悪化させていることである。すなわち業務が極めて過重で、従業員に対する安全配慮義務が守られていなかった。

そもそも、健康に悪影響を与える長時間労働は、法で規制されているのではないか?

長年にわたり過労死・過労自殺問題に取り組んできた玉木一成弁護士は、労働時間規制は抜け道だらけで実質的に法的な上限はないと説明する。

「労働時間は労働基準法で1日8時間、週40時間と規制されていますが、会社と組合が協定を結んだら時間外残業をできることになっています。厚労省は健康に配慮して協定の上限を1カ月45時間にするよう指導していますが、そこにも抜け道があって、業務の都合で仕方のない特別の場合、1カ月150時間や200時間まで可能といった規定を設け、『特別の場合が常態』という形で結局、45時間という指導が守られない」