「政府に殺される」と叫んで死んだ

その3年後の2012年4月4日、アメリカから遠く離れたギリシャで77歳のディミトリス・クリストウラスが自殺した。ディミトリスにはほかに道がなかった。1994年に薬剤師を引退してから年金暮らしで、それなりに幸せにやってきたが、新政府に年金を奪われ、もはや薬代も払えないほど困窮していた。

その日の朝、ディミトリスはアテネ中心部のシンタグマ広場に行き、国会議事堂の正面階段を上った。そして銃を頭に突きつけ、「自殺じゃない。政府に殺されるんだ」と叫んで引き金を引いた。

後日、ディミトリスのかばんに入っていた遺書が公開された。そのなかでディミトリスは、新政府を第二次世界大戦中にナチスに協力したゲオルギウス・ツォラコグロウ政権になぞらえていた。

今の政府はツォラコグロウ政権と同じだ。わたしは三五年間年金を払いつづけたし、今まで政府の厄介になったこともない。ところが政府は、当然受け取れるはずの年金をわたしから奪い、生きる術を奪った。もっと思い切った行動をとりたいところだが、この歳ではそれもできない(とはいえ誰かがカラシニコフ銃を手にするなら、わたしもすぐあとに続きたいところだ)。もう自分で命を絶つ以外に方法がない。そうすれば、ゴミ箱をあさるような惨めな思いをせずにすむ。この国の未来のない若者たちは、いつの日か武器を手にとり、裏切り者たちをシンタグマ広場に吊すだろう。一九四五年にイタリア人がムッソリーニを吊したように。

ディミトリスの自殺については、後日「これは自殺ではなく殺人だ」という声も上がった。ディミトリスが死んだ場所の近くの木には、こんな抗議文が打ちつけられた。「もうたくさん。次は誰の番?」

不況と健康の関係性はどの程度深いか?

アメリカとギリシャは8000キロ以上離れている。しかしオリヴィアとディミトリスの運命は、どちらも世界大恐慌以来最悪といわれる金融・経済危機によって捻じ曲げられた。

わたしたち二人は公衆衛生学者として(サンジェイはカリフォルニアのスタンフォード大学、デヴィッドはイギリスのオックスフォード大学で研究をしている)、今回の大不況〔同上。リーマン・ショック後の不況を指す〕が多くの人々の命と健康に害をもたらしつつあるのではないかと心配になった。実際、患者や友人、隣人の話を聞いてみると、失業で健康保険を失い、治療や投薬を受けられないという人が少なくなかった。

しかも医療にとどまらず、生活全体に被害が及んでいた。きちんとした食事がとれない、強いストレスにさらされている、家を失って路頭に迷っているといった人が増えていたのである。こうした状況は心臓疾患やうつ病、自殺、さらには感染症の広がりにも影響を与えずにはおかない。その影響はどの程度のものだろうか?

わたしたちはその答えを求め、今回および過去の大不況に関するデータを世界中から集めた。そして丹念に調べていくと、いささか矛盾する結果が出ていることがわかった。