非難の一方でユーモア溢れるSNS投稿が続出
在宅の夫や子供の面倒を見ながら家事や仕事も一手にこなす女性たちをねぎらったつもりでドラえもんを登場させたこの施策は、「女性蔑視だ」「どうして家で着飾ったり化粧したりすることで、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)を予防できるのでしょうか? 頼むから教えてください」と非難のコメントが相次ぐ結果となった。
“ドラえもん投稿”の翌日である3月31日には、女性支援団体のマレーシア支部は「これらの標語はジェンダーの不公平を加速させるものであり、古き家父長制の概念を永続させかねないものだ」と厳しく指摘した。
同日、マレーシアの女性・家族・社会開発省は謝罪し、投稿をすぐに削除した。気分を害された人々に対して今後は注意を払いたいとしたうえで、あくまで「外出禁止令の最中、少しでも平和な家庭環境をどう維持するか」をアドバイスしたかったと述べている。
一方で、この騒動は意外な動きを見せた。マレーシア国民が、ドラえもんに関する動画をSNS上に続々と投稿することになったのだ。
Facebookにドラえもんの話し方をかわいくまねした動画や、妻が夫の洗濯物の干し方についてドラえもんの声でおしとやかに指導する動画が投稿されると、瞬く間に拡散していった。
さらに、マレーシアのWEBメディア「チリソス(Cilisos)」も、この騒動に乗じてマレーシア版に翻訳されたドラえもんの女性声優に取材した記事を配信している。記事の中では、彼女がドラえもんの声優になるまでの経緯や現在の仕事の状況に至るまで人生の苦労話を紹介し、ドラえもんの声で「怒らないで、ダ~リン」「魔法のマスク~!」とマレー語を話す声優のボイスメッセージまでアップしている。
コロナ「患者ナンバー2020番」という強烈なジョーク
SNSに端を発したこのムーブメントは、ドラえもんだけでなく、マレーシア政府機関の投稿内容そのものにまで広がった。
中でもシェア数3万5000件以上、コメント数約1万件と話題になったのが、「お化粧をしてきちんとした服装の女性」のFacebookへの投稿だ。黒いゴージャスなドレスに白いショールをまとい、自宅の風呂場でバケツを抱え優雅に掃除したり、ハイヒールを履きながら消毒液で鏡を拭いたりする様子がアップされている。
コメント欄には、「とっても美しい!」「もうこれからは毎日ヘアセットしないといけないじゃないですか(笑)」「それならば夫もカッコいい服装に着替え、ドナルドダックのような声を出さなければならないでしょう」という声が寄せられた。
その後、Facebookには、皮肉に満ちたこんなエピソードもアップされた。
「昨日私のご近所さんが救急車で病院に運ばれました。後で知ったのですが、彼はけいれんを起こしたそうです、彼の奥さまがドラえもんのように彼にささやきかけた直後に……。彼は今呼吸器をつけられています、患者ナンバー2020番」
「患者ナンバー2020番」とは、マレーシアで新型コロナウイルスに感染した患者数をいう際に使う言い回しだ。つまりこれは、妻のドラえもんのようなささやきに夫が卒倒し、病院に運ばれて呼吸器を装着する患者になってしまった、という強烈なジョークである。