プリンセス像の話をしたと思ったら、マーベル映画の話をする日々

とはいえ、ディズニーも営利企業であり、四半期業績を問われ、株主の期待に応じることを求められている。また、世界中ほとんどすべての国でビジネスを展開していることに伴う、さまざまな責任や義務からも逃れられない。これという大事件がない時でも、常に時代に適応し、姿を変えていく力が、ディズニーの経営には必要になる。

CEOの仕事は幅広く、投資家に成長戦略を描いてみせ、テーマパークの巨大な新アトラクションのデザインをイマジニアのクリエイターと共に考え、編集段階の映画について意見を伝え、保安警備や企業統治の体制について議論し、チケット価格や社員の給与体系についても話し合わなければならない。毎日が変化と挑戦の連続で、次々と気持ちを切り替えなければ仕事はこなせない。

たとえば、現代のディズニープリンセスにどんな特徴が求められるか、それをどのように表したらいいのかについて語ったあと、そのことは頭から追い払って次の議論に集中し、今後8年間のマーベル映画の候補作を話し合わなければならない。しかも、そんな風にスケジュール通りに物事が進む方が珍しい。思いもよらない危機や失敗に見舞われることがほとんどだ。いつも何かしらの事件や事故がどこかで起きている。

私流の「リーダーシップの原則」を書いた

もちろん、これはディズニー社に限ったことではなく、どんな企業や組織でも同じことだろう。何かが起きない日の方が珍しい。この本は、ごく簡単に言えば、私流のリーダーシップの原則を書いたものだ。人や組織のいい面を育て、悪い面を抑えるような一連の原則が、ここに書かれている。

私は長いこと、本の執筆には乗り気になれなかった。つい最近まで私なりの「リーダーシップの法則」なり、経営に対する考え方なりについて、人前で話すのを避けてきた。それは、自分が偉そうに語れるほどのことをまだ充分にできていないと感じていたからだ。だが、45年間仕事をしてきて、特にこの14年を振り返った時、私の経験を語ることで、幅広い層の人たちの役に立つかもしれないと思いはじめた。

事業を経営する人、チームを運営する人、誰かと協力して共通の目的を追求する人にとって、この本が助けになればと思っている。私はメディアとエンターテイメント業界でしか働いたことはないが、私の経験には普遍的な教訓があると感じている。たとえば、リスクを恐れず、創造性をはぐくむこと。信頼の文化を築くこと。好奇心を燃やし続け、周囲の人に感動を与えること。変化を否定せず、喜んで受け入れること。経営については、何よりも、誠実に正直に取り組むこと。向き合いたくないことにも、正面から向き合うこと。

そう言うと抽象的に聞こえるかもしれないが、長いキャリアの中で私が実際に経験した逸話や事例を読めば、これらの教訓がより具体的で身近に感じられるだろう。大企業の経営者を目指す人だけでなく、仕事や私生活で少し大胆になりたい人やもっと自信を持ちたい人にも、本書は役に立つはずだ。