春は就職や進学に伴う引っ越しの季節だ。日本経済が高度成長を続けていた1970年代、この年中行事は“民族大移動”などと呼ばれ、ある種、風物詩のようになっていた。ピーク時には、その数が年間850万人にも達し、市場規模も6000億円はあったという。だが、少子高齢化や景気低迷を反映して、昨年は530万人、4000億円前後と推定される。
こうした状況のなか、引っ越し業界とりわけ大手業者は差別化にしのぎを削っている。各社とも荷造り、配達に際しては、一定容量のボックスを利用することで、利便性を高め、リーズナブルな料金を打ち出してきた。
実績トップの日本通運の「単身パック」を例にとると、1.9立方メートルのLサイズの場合、東京-大阪間は2万7300円という定額制。インターネットやモバイルからの申し込みなら、さらに割引もある。同社の鎌田良三引越営業部長は「これは20年前に始まった。引っ越しは、運送の概念から生活支援サービスにシフトした。それぞれの生活シーンに合わせメニューを提案していくことが大切」と話す。
引っ越し業者の価格を比較するサイトも生まれ、価格面で劣る大手業者は苦戦を強いられるかに見えたが、長年の実績で顧客の信頼を勝ち得た大手が強みを発揮し、市場は大手数社による寡占化が進んでいる。直近の売上高も上位6社で2700億円を占めた。規制緩和によって、業者乱立による値引き合戦が懸念されたが、利用者は業者選択に際して、価格だけでなく、安心感も求めているということだろう。
(ライヴ・アート=図版作成)