安倍総理の記者会見とシェンロン首相の記者会見の違い
語りかけるようなそのメッセージは世界各地のメディアにも取り上げられ、シンガポール国民の平静を保つことに寄与しました。
3月12日には2度目のメッセージを発表し「収束するまでに1年かそれ以上になる可能性がある」と言及したうえで、更なる経済的な支援策の拡充を準備していると明かしました。
一方で、安倍晋三首相が開いた記者会見は、予定調和な答弁に終始し、国民からは不満の声があがりました。不要不急の外出を控えるよう要請している政府に対して「記者会見自体が不要不急ではないか」との批判も。シンガポールの政府対応とは雲泥の差と言えるでしょう。
シンガポール政府が新型コロナウイルスの拡大をある程度抑えられている要素として、次の4つがあると考えています。その4つとは、
(2)感染者の徹底した隔離
(3)感染者情報の公開と感染ルートの解明
(4)市民生活への財政的支援
です。
特に国民生活に密接に関係するものとして(1)入国制限策の迅速な導入と(2)感染者の徹底した隔離は、日本がコロナウイルス禍を乗り越えた際に参考とすべき点ではないでしょうか。
(1)入国制限策の迅速な導入
シンガポールはチャンギ国際空港という世界有数のハブ空港を抱えており、入国制限をすること=ビジネス需要や観光需要の減退に繋がるという事情がありますが、素早く入国制限に踏み切ったことは感染拡大の抑制に効果的だったように思います。
シンガポールで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは、1月23日。武漢から入国した66歳の中国人の男性でした。シンガポール政府はこれを受けて、1月29日には過去14日間に湖北省に滞在したことがある人などの入国を禁止し、さらに2月1日にはその対象を拡大し、中国大陸に滞在した外国人(永住権や長期滞在ビザを持つ人を除く)と中国のパスポートを持つ人の入国を禁止しました。
中国を入国禁止にするまでわずか8日
感染者が初めて確認されてから、当時の「震源地」だった中国からの入国を禁止するまでにわずか8日。それもあり2月の1カ月間の新規感染者数は86人に抑えられていました。ただ、3月に入ると、すでに感染が拡大していたヨーロッパやアメリカから入国した人の感染確認が続き、残念ながら感染者数は3月になってから急激に増えてしまいました。
3月4日には韓国やイタリア北部、イランに滞在歴のある人の入国を禁止し、3月16日にはASEAN各国や日本などからの入国者に対して14日間の隔離措置を取り始めましたが、政府は欧米からの入国制限も早めにしておくべきだったと感じていることでしょう。
(2)感染者の徹底した隔離
日本人の感覚から、もっとも驚かされるのは感染者に対する隔離策の徹底ぶりです。まず、入国が制限されている地域から入国した人(現在は全ての国からの入国が一部の人を除き禁止されています)には自宅待機措置(Stay‐Home Notice、SHN)が取られます。
これは、日本政府が実施しているような「要請」ではなく「強制的な」隔離です。SHNは14日間を基本とし、その間は一切の外出を禁止する非常に厳しいもので、近所のスーパーへの買い物に出掛けるのも禁止。保健省から1日数回、スマートフォンへの電話やアプリ、ショートメールなどを通じて連絡があり、1時間以内に所在地を返信しなければなりません。
では、生活はどうするのかといえば、必需品や食料は宅配サービスを利用するなど親族や会社の人に頼ることとされています。日本で緊急事態宣言が発出された後もここまでの徹底ぶりはできないでしょう。
SHNを破ったらどうなるでしょうか。罰金や懲役刑が科される可能性はもちろん、永住権や就労ビザが剥奪されるうえ、再入国が永久に禁止されることもあります。実際、保健省にSHNの期間中の所在地について虚偽の申告をしたとして、中国人夫婦が起訴されました。