「今なら株価も下がっているし、投資信託とか買っておくと得? それとも国債のほうがいい?」
友人から、そう聞かれることが増えてきた。住宅ローンも終わりが見えて、子どもたちもやっと卒業しそう。そろそろ老後のお金の心配でもしようかな、という年齢の人々だ。
現在50代の人は、定期預金金利が5%以上あった時代を覚えている。「スズメの涙の金利で預けるのは損!」と思うのも無理はない。最近では銀行でも投資信託を買えるほど、投資も身近になっている。老後資金をもっと有利に殖やす方法はないかと、商品探しに熱心になるわけだ。
そんな世代にまず読んでいただきたいのが『お金を知る技術 殖やす技術』(小宮一慶著、朝日新書)。サブタイトルは『「貯蓄から投資」にだまされるな』である。近年“貯蓄から投資の時代”という言葉が金融業界のスローガンのように掲げられてきたが、ブームにのって大切な老後資金を投資する必要はない。まずは「守るお金」と「攻めるお金」を区別することが大切だと本書は説く。
例えば、定年まであと5年の人が老後資金の目標3000万円にあと500万円足りないとき、現在の資金をどう運用すればいいか?
本書の答えは、「元本割れリスクの少ない商品(預貯金など)を中心に運用する」「老後資金の目標金額を下げる」である。投資信託などで高い利回りを狙うことを勧めないのは、この資金が減らしてはいけない「守るお金」だからだ。もっと時間のある場合や、減っても困らない余裕資金なら「攻めるお金」として投資に回してもよい。ただし、その資金を投資するか否かは、自らの価値観で決めればいい、と著者は語っている。
運用する商品選びに目がいきがちだが、老後のマネープランを考えるなら、ライフプランや収支計画のほうがはるかに重要といっていい。
とはいえ、何を、どこから始めればいいか見当もつかない――という人にお薦めしたいのが『賢いサラリーマンのリタイア準備術』(三輪鉄郎著、集文館)だ。
現状把握→目標設定→目標までのプラン作成→達成へのアクションという、ビジネスマンにはおなじみの流れで簡潔にまとめられているから、一冊でマネープランの全体像がとてもよくわかるはず。計画づくりに欠かせない「財産目録」「収入・支出記入シート」「ライフプラン・キャッシュフロー表」といった作業表を無料ダウンロードできるので、気軽に試してみるとよさそうだ。
さらに定年が近づいてきた人は、年金の知識もしっかり身につけたい。ところがこれがクセ者で、とにかく複雑怪奇なものだ。仕組みの概要がわかっても「結局、自分の場合はどうなのか」が不明だったりする。いわゆる解説書は“広く浅く”になりがちなのだ。
そこで、50代後半の人に的を絞って書かれた『定年後も働きたい人のための保険・年金・給付金の本』(安田征二著、かんき出版)を推薦したい。
これから定年を迎える人の多くは、年金を満額受け取れる65歳までは仕事を続けたいと思っているだろう。気になる在職老齢年金の減額割合や、高年齢雇用継続給付金の支給率、年金受給繰り上げ・繰り下げの損得勘定などが多くのケースを使って説明されているからありがたい。また、請求手続きや必要書類、請求から年金受け取りまでのスケジュールなども実際に役立つだろう。
実は、本をつくる立場からいうと、ここまで読者ターゲットを絞るのはかなり勇気を必要とする。編集者の英断に感謝したくなる一冊だ。