国民の意識が高い日本と中国の「単純比較は無理」

もちろん、医学的な見地からいっているわけでも何でもなく、これはあくまでも、この女性の印象論に過ぎないが、SNSで日本に行ったことがある中国人に聞いてみると、同じように感じている人は少なくない。

外出の際はマスクの着用を義務づけるなど厳しい措置を取っている中国に住む多くの人々から見れば「日本の措置は甘すぎる」となるだろう。日本人自身も「こんな生ぬるいやり方で、本当に大丈夫なのか?」と思っている人が多い。

だが、この女性や、多少日本のことを知っている中国人が「そこまで危険ではない」と思うのは、あくまでも中国の電車と比較しているからであり、国民の意識が高い日本と中国は「何事も単純には比較することができない」ということだ。

女性が暮らす上海市内には17以上もの地下鉄路線がある。新型コロナ問題が発生する以前、毎朝の通勤時間帯になると、東京ほどのひどいラッシュにはならないものの、地下鉄はほぼ満員に近い状態になる。日本と同様に係員がホームに立って整列乗車を呼び掛けているが、東京とは違い、その並び方はゆるやかだ。

東京のように2人ないし4人ずつ横に並び、その列が入線してきた電車に乗り終わると、次の電車に乗る列が横にスライドする、というような確立したスタイルはない。「なんとなく」整列しているのが普通だ。さらに、中国では電車内の奥まで詰めて乗る人は多くなく、皆それぞれ自分が好きなところに立っているため、効率よく満席にはなりにくい、と指摘する。

中国の地下鉄マナーはまだまだ

かなり混雑してきても、ドア付近にふんばって立っている人がいると、自分が奥のほうまで入っていきづらいのだ。確かに私自身も、上海や北京の地下鉄で「もっと奥まで乗車してほしいな。奥のほうが空いているじゃない」と思ったことが何度もある。ドア付近は開閉するので奥よりも換気されているのだろうが、そこだけに人が集中していると、濃厚接触のリスクも高くなる。

それでも上海や北京などの大都市はまだ相当いいほうだ。地方都市になると、そもそも地下鉄の路線ができたのがこの10年くらいのため、「なんとなく」整列するという姿もあまり見られないし、乗り方も人それぞれ、バラバラだ。乗車率も北京や上海ほど多くないため、その乗り方でも問題になってはいないともいえるが、地下鉄内でのマナーはまだ、あまりいいとはいえない。

広東省深圳に暮らす30代の女性は、地下鉄内での様子についてこう話す。

「とにかく乗客の声が大きいんです。とくに中高年の男性の中には周辺に会話の内容がすべて聞こえるくらい大きな声でしゃべる人がいます。北京や上海ではそういう人は、もうめったに見かけなくなり、車内は静かなのですが、こちらではときどき見かけます。今は新型コロナ対策で皆マスクをしていますけど、以前はもちろんそうではなかった。今考えてみると、周囲に相当、唾が飛んでいたと思いますね」