知らない人と一緒に仲よく食事するときしか使えない
地域活動に参加したり、地域で困っている人を助けたり、人のつながりを深めるといった活動をすることでコインが獲得できます。そのコインは、地元の加盟店で利用することができます。ただ、単に地元のお店で使えますよというのではないところが「まちのコイン」の特徴です。使うときも、人のつながりを意識した使い方しかできません。
たとえば、ひとりでお店に入って、知らない人と一緒に仲よく食事するときしか使えない。バーのマスターの悩みを聞きながら楽しくおしゃべりするときだけ飲めるドリンクを設定するというようにです。コインをもらうときも使うときも、人のつながりを意識した設計になっているので、使えば使うほどまちのみんなが仲よくなってしまうのです。
技術的には、分散台帳技術を使っていて、地域の人が参加して、こういった独創的なメニューやプロジェクトをお店の人や住民がどんどんつくって、コインを付与したり、利用することができます。
ゲーミフィケーションの要素も入れています。活動に応じてレベルアップしたり、まちを歩いているとラッキーコインを拾うことができて、それを持っている間は獲得コインが1.5倍になるといった仕組みです。
時間とともにお金の価値は減ってしまう
そして、大事なことは、このコインは円に換金できないこと、時間が経つと価値が減っていくことです。
まちのコインの特徴として「時間が経つと価値が減っていく」という話をすると、びっくりされます。価値を保存できるということは、お金の機能のひとつですから、あたりまえです。名目価値が変わらないからこそ、肉や野菜のように腐ってしまうこともなく、富を蓄えておけるわけです。
それどころか、銀行に預ければ、利息だってついてきます。お金を生産設備に投資することで、さらに利潤が生まれて、お金が増えていく。これが資本主義のメカニズムでもあります。
ただ、お金がお金を生み出す金融資本主義がいきすぎた結果、さまざまな弊害も生まれるようになりました。たとえば環境問題だったり、貧富の格差といった問題です。
そうした流れに歯止めをかけようと、「時間が経つと価値が減っていく」お金をつくろうというのは、今に始まった話ではありません。『モモ』『はてしない物語』(ともに岩波書店)で知られるドイツのファンタジー作家ミヒャエル・エンデは、『エンデの遺言』(NHK出版)の中で「老化するお金」「時とともに減価するお金」といったヨーロッパでの地域通貨の取り組みについて紹介しています。