CM放映後、売上高は4.5億ドルに跳ね上がった

CM放映後、全米シュガーレスガム総売上高25億5000万ドルというマーケットにおいて、この企業の売上高は4.5億ドルとなりました。ガムという、差別化が難しく競合ひしめく市場で、ナンバーワンの売り上げとなったのです。

実はこれ、すべて計算づくのことであり、再現性のある戦略でした。それも、映像よりも、サウンドという点で。サウンドという点でこのCMが特殊だったのは、次のような点です。

▼最初から感情を高ぶらせる音楽を使わない
▼シンプルな音やリズムを用いる
▼企業名をすぐには出さない
▼ナレーションやセリフを入れない
▼父娘の成長に合わせて少しずつテンポを上げていく
▼セリフは最後の商品ナレーションのみ
▼父娘の温かいつながりの感情と商品名をリンクさせる(「Extra」ガムで、「Extra(特別)」な思い出を)

CMシーン別のBGMのサウンド効果を分析する

では、CMのシーンごとにサウンドの効果を見ていきましょう。

車窓で親子が向き合うシーンでは、鼓動よりもゆったりとしたスローテンポで、ラ(A4:NHKの時報の音)からソ(G4)、ファ(F4)と下降していきます。下降するメロディは、時が遡るイメージを引き起こします。これが、父娘の思い出へと視聴者を誘導します。

次の、娘が誕生日を迎えるシーンでは、穏やかでシンプルなBGMが流れます。少しずつビートが加わり、音量が上がっていくことで、娘の成長が表現されています。

誕生日ケーキ
写真=iStock.com/Renoji
※写真はイメージです

時は流れて、娘が親元を離れるある日。物語のクライマックスを映像で見せ、その後少し遅れて曲調が最高に盛り上がり、ようやくこのタイミングで「Sometimes little things, last the longest……」というナレーションが流れます。

ここで視聴者は、娘の成長と思い出を振り返ることになります。箱からこぼれた折り鶴(ガムの包み紙という特別なものではないもの)に込められた父の想い、そしてそれを大切に取っておいた娘の想いを汲み取り、共感するのです。

共感している間に流れる「Last Longest(もっとも長く続く)」というナレーションが視聴者の記憶に刻み込まれます。

顧客の意思決定の基準の70%はBGMを含む感情的なもの

そして、コンビニなどで「Extra」のパッケージを目にしたとき、これがトリガーとなりCMを通して共感した感情が引き出されます。

同時に「Last Longest(もっとも長く続く)」から「ガムの味が長く続く」という感覚が呼び起こされ、購入を決定する確率が高まるのです。

つまり、視聴者は、このCMから流れるサウンドを通して温かな感情が呼び起こされ、特別なブランド体験をすることになるのです。

「顧客の意思決定、ロイヤリティーは主に感情的なものである。採用を決定する基準の70%は感情的なもの、残りの30%が合理的なものである」といわれています。

このことから考えると、商品の特徴やメリット・商品名・ブランド名を打ち出していく従来のコマーシャル手法は、意思決定を左右する要素の70%を押さえられていない、ともいえます。