BGM(=背景音楽)は消費行動にどんな影響を与えるのか。サウンド表現コンサルタントのミテイラー千穂氏は「あるスーパーマーケットでは、スローテンポのBGMを再生した日は、アップテンポのBGMを再生した日と比較して、『売り上げ32%増』を記録した。わたしたちは、いつのまにか『音』に誘導されている」という――。

※本稿は、ミテイラー千穂『サウンドパワー わたしたちは、いつのまにか「音」に誘導されている』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

音符のハーモニー, ベクトルのイラスト
写真=iStock.com/Yosuke Hasegawa
※写真はイメージです

全米ガム市場でナンバーワンに押し上げた「控えめなCM」

ビジネスをアップデートする力をもつ「サウンド」の重要性に、近年アメリカやカナダ、ヨーロッパの企業が注目するようになってきています。さらには、ビジネスのみならず、教育、医療、政治などさまざまな分野で活用が始まっています。

まずは具体例をいくつか見ていきましょう。

サウンドパワーをフル活用して成功した事例に、とあるガムのCMがあります。

列車の窓際に父親と幼い娘が向き合い、ガムを食べながら座っています。そして、父親が、ガムの包みから鶴を折り、娘はその鶴を手に取ります。穏やかでシンプルな音楽が流れるなか、折り鶴を中心に彼女の成長シーンが映し出されます。

娘が誕生日を迎え、雨の日も雪の日も晴れの日も父親は鶴を折り、娘にそっと贈ります。さらに時は流れ、娘が親元を離れる日がやってきます。

なぜ穏やかでシンプルな音楽が購買欲を刺激したのか

娘の荷物を車に運ぶ手伝いをする父親が、バランスを崩し、小箱を落としてしまいます。そこであふれ出てきたのが、折り鶴でした。折り鶴を手に取る父親は、これまでの娘の成長と父娘との思い出を浮かべます。

このタイミングでようやくナレーションが入り、「Sometimes little things, last the longest……(ときに、ささいなことがもっとも長く続く……)」と流れます。

最後に、緑色の背景に白の文字で、「give Extra GET extra」と商品のナレーションが入り、CMが終わります。

※編集部註:本CMは2020年3月現在、こちらのサイトでみることができます。

約1分のコマーシャル映像のなかで、商品パッケージが映るのは、最後のナレーション含め3回だけ。ナレーションは、残り数秒になるまで入りません。この「控えめ」なCMは、大成功でした。