※本稿は、ミテイラー千穂『サウンドパワー わたしたちは、いつのまにか「音」に誘導されている』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
全米ガム市場でナンバーワンに押し上げた「控えめなCM」
ビジネスをアップデートする力をもつ「サウンド」の重要性に、近年アメリカやカナダ、ヨーロッパの企業が注目するようになってきています。さらには、ビジネスのみならず、教育、医療、政治などさまざまな分野で活用が始まっています。
まずは具体例をいくつか見ていきましょう。
サウンドパワーをフル活用して成功した事例に、とあるガムのCMがあります。
列車の窓際に父親と幼い娘が向き合い、ガムを食べながら座っています。そして、父親が、ガムの包みから鶴を折り、娘はその鶴を手に取ります。穏やかでシンプルな音楽が流れるなか、折り鶴を中心に彼女の成長シーンが映し出されます。
娘が誕生日を迎え、雨の日も雪の日も晴れの日も父親は鶴を折り、娘にそっと贈ります。さらに時は流れ、娘が親元を離れる日がやってきます。
なぜ穏やかでシンプルな音楽が購買欲を刺激したのか
娘の荷物を車に運ぶ手伝いをする父親が、バランスを崩し、小箱を落としてしまいます。そこであふれ出てきたのが、折り鶴でした。折り鶴を手に取る父親は、これまでの娘の成長と父娘との思い出を浮かべます。
このタイミングでようやくナレーションが入り、「Sometimes little things, last the longest……(ときに、ささいなことがもっとも長く続く……)」と流れます。
最後に、緑色の背景に白の文字で、「give Extra GET extra」と商品のナレーションが入り、CMが終わります。
※編集部註:本CMは2020年3月現在、こちらのサイトでみることができます。
約1分のコマーシャル映像のなかで、商品パッケージが映るのは、最後のナレーション含め3回だけ。ナレーションは、残り数秒になるまで入りません。この「控えめ」なCMは、大成功でした。