そこで、詳細な分析を行ったところ、社会の腐敗度が高い国から来た外交官ほど、反則金の支払いを無視する回数が多いことが確認された(図表1)。また、アメリカと距離的に近い国ほど、反則金の支払いを無視する確率が少ないことも分かった。距離についての結果は、理由が定かではないが、移民や観光を通じて文化的な類似性があるからではないかと推測されている。

国別外交官1人当たりのニューヨーク市 における駐車違反反則金の踏み倒しの指標
Fisman and Miguel(2007)Figure 2 より抜粋して作成。罰則強化以前には、腐敗している国の外交官ほど、反則金を踏み倒していたことが分かる

この結果をどう解釈すべきか

これらの結果から、フィスマンとミゲルは、遠く離れた異国の地にいる外交官でも、母国の政府職員のようにふるまい、社会的腐敗と関連した規範の影響の強さがうかがえるとする。こうして見ると、良き隣人となるか、悪しき隣人となるかは、出身国によって、ある程度推測できるかもしれない。

ただし、それはあくまで短期的な議論だ。彼らの分析では、社会的腐敗と関連した規範が、長期的にどのように変わるかまでは分からない。また、彼らの分析は、移民の受け入れ対象国を選ぶために行われたわけではない。社会的な腐敗行為には、文化的な規範と法的処罰の両方が影響を与えることが主眼だ。さらに、法的処罰の影響は、文化的な規範の変化の影響よりも大きいことを示している。

この結果をどう解釈すべきだろう。短期的でも社会的規律を乱す可能性がある移民は排除すべき、つまり、出身国による移民受け入れの選別を認めるべきか、それとも、法的処置によって規律はコントロールできるので、出身国による選択を行うべきでないとするか、いずれにしても難しいところだ。

出身国によって移民のタイプは違ってくる

議論は社会規範にとどまらない。ボージャスによると、出身国により、移民のタイプが違ってくる(注2)。所得格差が少なく、高技能を有する労働者がさほど評価されていない国からは、高技能労働者が移民してくる。一方、所得格差が大きく、単純労働者が貧困にあえぐような国からは、単純労働者が移民する傾向にあるとする。

ここでの高技能労働者の移民とは、日本の研究者がアメリカに移住するようなケースだ。たとえば、アメリカの大学教授は、野球やサッカー選手のように、契約時に交渉して年収を決めるため、論文や特許のような業績が重要になる。しかし、日本の大学教授は業績で年収が変わることはなく(一部例外は除く)、勤続年数などで一律に給料が決まる。このため、評価に不満を持つ優秀な研究者が、研究環境を含めて、より魅力的なアメリカの大学に移ってしまうのだ。

発展途上国からの単純労働者移民はもっと分かりやすいだろう。貧困を脱するという理由で、経済的により良い生活を求めて移住するのだ。