国連勤務の外交官の駐車違反が急減した理由

また、コロンビア大学のフィスマンとカリフォルニア大学バークレー校のミゲルは、国連に勤務する外交官の駐車違反を調べ、国によってズルをする程度が違うとする(注1)。社会の腐敗度が高い国(たとえば、汚職などが一般的な国)からの外交官は、外交特権を私的に乱用し、反則金の支払いを怠る傾向があるのだ。

ご存知の方もいるかもしれないが、国連のあるマンハッタンでは、駐車スペースを探すのに大変苦労する。このため、駐車違反も多く見られる。

こうしたなか、外交特権は、無料の駐車券と揶揄やゆされていた。駐車違反をすると、外交官であることを示すプレートをつけている車も反則切符をもらうかもしれない。しかし、国連に派遣された職員やその家族は、外交特権を使い、2002年までは反則金を支払わなくても罰せられなかったのだ。反則金を払うかどうかはあくまで自発的な行為であり、それぞれの出身国の文化的な規範にゆだねられていたといえる。

しかし、世論に後押しされる形で状況は変わった。2002年11月から、支払い不履行が累積4回以上の外交官の車から、ニューヨーク市が外交官のライセンスプレートを没収できるようになったのだ。

さらに、ニューヨーク市は、国務省に対し、不履行を犯した外交官の出身国に援助するアメリカの資金のうち、反則金の110%相当額を控除するように申請できることになった(実際に申請されたことはないそうだ)。すると、駐車違反に対する反則金の支払い不履行が、急速かつ急激に減ったのだ。

注1:Fisman, R. and E. Miguel, 2007, Corruption, Norms, and Legal Enforcement: Evidence from Diplomatic Parking Tickets, Journal of Political Economy 115(6), 1020-1048.

腐敗度が高い国の外交官は反則金を踏み倒す傾向が

では、どのような国が反則金を無視していたのだろうか。1997年11月から2005年11月までのデータを使い、外交官1人当たり1年間に反則金の支払いが不履行である回数を見てみると、ワースト10は、クウェート、エジプト、チャド、スーダン、ブルガリア、モザンビーク、アルバニア、アンゴラ、セネガル、パキスタンである。

一方、まったく無視していない国は、北欧の国、カナダや日本だった。ワースト6の国は、反則金を100回以上踏み倒している。ちなみに、分析の対象となった149カ国のうち、日本は143位(下の順位ほど、違反が少ない)、お隣の中国は67位、韓国は122位となっている。

こうして見ると、社会の腐敗度が低いとされる国の外交官は、きちんと反則金を支払う一方で、腐敗度が高い国からの外交官は、踏み倒す傾向が見られる。反則金の不履行と社会の腐敗度には関係がありそうだ。