米中の通商摩擦で国民の不満が増大
2019年5月、米中は通商交渉をめぐり、7分野150ページに及ぶ合意文書案の作成に取り組んだ。文書案には補助金政策に関する記載など、踏み込んだ内容があったようだ。
それは、保守的な考えを持つ共産党幹部にとって、容認できないものだっただろう。構造改革は、共産党の保守派にとって既得権益の喪失を意味する。地方の幹部にとっても痛手だろう。同年4月下旬には、習体制に対する保守派からの批判が激化した。
背景には、米中の通商摩擦などを受けた景気の減速がある。それにともない、人々の不満は増し、共産党の求心力は低下しつつある。共産党内部ではその状況への危機感が高まり、徐々に指導部への批判が勢いづいたとみられる。
習国家主席は構造改革に反対する保守派からの突き上げにあい、それを抑えることが難しくなった。習氏は文書案を105ページに圧縮・修正し、一方的に米国に送り付けた。それは、中国経済の運営のイニシアチブが改革派から保守派にシフトしたことを示唆する出来事だった。
景気減速とともに債務問題が深刻化
その後、中国政府は中国人民銀行を通して資金供給を行い、資産価格のサポートをはじめとする景気刺激策を強化した。それは、バブルの延命措置に等しい。同時に、中国では景気減速とともに債務問題が深刻化している。2019年6月末の時点で中国の民間非金融部門の債務残高はGDPの約209%だ。
この状況は、1991年のわが国と酷似している。1991年3月末、同じ基準で見たわが国の債務残高はGDPの209%だった。同年7月、日銀は金融緩和に転じた。それは不動産バブルが崩壊し、景気の減速に対応するための措置だった。1997年度までわが国は整備が一巡した公共事業によって景気を支えようとしたが、大きな効果は見られなかった。
また、不良債権処理は先送りされ、1997年11月には金融システム不安が発生した。わが国の教訓は、大きなバブルが崩壊した後で景気回復を目指すには、構造改革と不良債権処理が不可欠だということだ。