炎症初期は「お腹に違和感がある」程度の症状

大腸がむくんでしまうことは、消化器の診療を専門にしている医師であれば誰でも知っていることですが、一般の人たちにはほとんど知られていないようです。筆者も、お腹の不調を訴える患者さんの腸の内部を大腸内視鏡(肛門から挿入してカメラで内部を調べる医療機器)で観察して、「腸の中が大分むくんでいますね。お酒を飲み過ぎたり、脂っこいものを食べたりしていませんか」と問いかけると、患者さんはびっくりするらしく、「腸もむくむことがあるんですか!?」と聞き返されます。

内視鏡で見た健康な大腸の粘膜は、腸管のヒダがしっかり立ち上がり、毛細血管もはっきり見えます。対して、むくんでいる大腸の粘膜は、慢性的な炎症によって、細胞に水分が誘導されて腫れぼったくなり、表面のヒダや血流がはっきり見えません。

炎症が内側の粘膜層に留まっている段階なら、強い痛みはなく、「お腹に違和感がある」「押すと痛いところがある」「酒を飲むと下痢が続く」などの症状が見られる程度です。しかし、炎症が粘膜より外側の層や、腸のすぐ外にある腹膜など神経のある組織にまで及べば、強い痛みを感じるようになります。

腸がむくむメカニズムをさらにわかりやすくするため、イラスト化してみました。

イラスト=『大腸がんで死にたくなければ腸のむくみをとりなさい!』
きれいな腸粘膜

日頃から食事に気をつけていると、上の図のように、腸内細菌の善玉菌と悪玉菌のバランスが良好に保たれて、粘膜の表面もきれいです。血液中の免疫細胞は、何ごとも起こらないときも見張ってくれています。

大腸がんの重大なリスク

ところが、毎日お酒を飲み、油物を好んで食べるような不摂生を続けていると、腸内細菌のバランスが崩れて悪玉菌が増えてしまいます。そして、腸の粘膜に炎症が起きると、免疫細胞は戦闘態勢になって炎症細胞の数が増え、粘膜の細胞に水分が誘導されて、右図のように膨らんで見えます。これが「腸のむくみ」の正体です。

イラスト=『大腸がんで死にたくなければ腸のむくみをとりなさい!』
むくんでいる腸粘膜

さらに、腸がむくんだ状態が続くと、大腸の壁に「憩室(けいしつ)」という凹みができてそこから出血したり、エノキのような「大腸ポリープ」ができたりすることもあります。大腸がんは、この大腸ポリープの一部が悪性化したものです。「腸のむくみ」は大腸がんの重大なリスクとなるのです。

腸のむくみの原因は、不摂生な生活──具体的には、①大量飲酒②牛・豚肉やバター、ラード、乳脂肪を含む牛乳や乳製品などの動物性脂肪(オメガ6系脂肪酸)の多い食事③水分不足による慢性便秘など腸内環境の悪化④運動不足などです。

①と②は、大腸がんの発症リスク要因とも共通しています。疫学的な調査研究からも、「1日に30グラムを超える動物性脂肪を摂っていると、腸の炎症を引き起こしやすい」ことや「ハム、ソーセージなど加工肉を食べることは大腸がんの発症につながる」ことなどが報告されています。つまり、「腸のむくみ」を予防する生活習慣は、そのまま大腸がんを予防することにつながるのです。