安倍首相が「まさに緊急事態だ」とあいさつをしたワケ
伊吹氏だけではない。自民党の下村博文選対委員長は2月1日、宇都宮市で講演し、新型肺炎問題に触れ「人権も大事だが、公共の福祉も大事だ。議論のきっかけにすべきではないか」と語っている。
安倍晋三首相は同日午前、首相官邸で開かれた「新型コロナウイルス感染症対策本部」のあいさつで「まさに緊急事態だ」と述べた。安倍氏が、改憲論を活性化させるために「緊急事態」という言葉を使ったのかどうかは定かではないが、自民党が今後、改憲論議を進めようとする時、安倍氏の「緊急事態」発言を利用することになるかもしれない。
しかし、現実的に緊急事態条項についての議論が活性化されていくとは、とても思えない。今、国会で議論されているテーマは何か。立憲民主党などの野党議員は、「桜を見る会」や、河井克行前法相、案里参院議員の夫妻らによる「政治とカネ」問題を中心に安倍氏らを追及している。
野党側にくさびを打ち込もうとしている?
一方、与党側は新型肺炎問題に力点を置き、スキャンダルを取り上げ続ける野党を「いつまで同じ問題を取り上げているのか。今は新型肺炎に全力を投入する時だ」と野党を攻撃している。そういう状況下で自民党が「憲法を議論しよう」という議論が受け入れられるとは思えない。疑惑を追及する野党への批判が、そのまま自民党に跳ね返ってくる。
連立のパートナー・公明党幹部も新型肺炎と改憲論をからめる自民党内の動きに対し、不快感を隠さない。逆に改憲の機運が遠のくという見方さえあり「新型肺炎で改憲」作戦は、うまくいっているとはいえない。
ただ、今回の「緊急事態」改憲論は、もう少し深い狙いもありそうだ。将来改憲論議を意識して野党側にくさびを打ち込もうとしていると思われる。