「官僚内閣制」打破の流派の違い
日本では従来、国会で首班指名が行われると、その日のうちに組閣してきた。だが「鳩山政権」は、首班指名から組閣までに、数日は時間をかける方針だ。内閣が準備不足で発足すると、官僚の振り付けに従わざるをえなくなり、そこから官僚支配が始まると考えているからだ。
米国では11月の大統領選から新政権発足までたっぷり2カ月かける。この例を見れば、同党の試みは、突飛な発想でないことがわかるだろう。ただ、米国と日本では事情が違うことは留意しておく必要がある。超大国・米国の場合、政治空白をつくっても他の国々はそれにつき合ってくれるが、日本は、そうはいかない。政権発足に時間をかけている間に、世界の流れから取り残されてしまったら何のための政権交代かわからない。
政治風土も日米では違う。日本の政治風土は、よくも悪くもウエットだ。人事に時間をかけると猟官運動が激しくなりかねない。政権移行期間中、鳩山氏や小沢氏の私邸前に入閣待望議員が列をなすような光景がテレビ映像で映し出されるようなことになれば、新政権への期待は最初からしぼんでしまう。
民主党は「官僚内閣制」打破で一致するが、その道筋については微妙な温度差、「流派の違い」がある。
長妻氏らは官僚への敵意を剥き出しにする。例えば、公務員が重過失を犯した場合に個人で弁償させる予算執行職員責任法を改正し、ただの過失でも賠償責任を問うようにしようという構想を持つ。公務員が震え上がるような話だが、国民受けはするだろう。
一方、もう少し現実的な考え方がある。元通産官僚で内閣副参事官として官邸勤務の経験もある松井孝治参院議員らだ。彼らは官僚を動かす勘所を心得ていて、民間から政治任用してもいいポスト、官僚でしか務められないポストの色分けもできる。だが、長妻氏らから見ると「官僚に甘い」と映ることもある。
菅氏の立ち位置も複雑だ。菅氏は96年、厚生相として薬害エイズの真相解明を進めたときから、官僚支配の打破をライフワークにしてきた。6月には月刊誌に「民主党政権のめざす国のかたち」という論文を寄稿。さらに「政治主導」の先進国・英国を訪問した。こういった言動は、党内の二流派の上に自身が君臨し、新政権づくりの主導的役割を果たす意思表明だ。しかし、こんな菅氏の言動に対し「スタンドプレーだ」との批判もある。