東京ドーム約700個分の農地に「新築一戸建て」が進出

筆者のフィールドワークの実感では、少なくとも農地全体の20%、多くて30%程度の農地が不動産市場に出てくる可能性があるのではないかとの感触を持っている。仮に25%の農地が市場に出てくるとなると、それはおよそ東京ドーム約700個分といった途方もない規模で、どれも超一等立地とはいえないものの、これらはすべて都市内に、都区部では練馬・世田谷・杉並・足立・葛飾・江戸川区など外周部に集中して分布している。

こうした農地が市場に出た場合、新築マンション用地にふさわしい立地や規模の土地はそうなさそうだが、一番ニーズがありそうなのが新築一戸建て建設用地。たとえ売らないとしても多くのケースで相続税対策としての新築アパートが建ちそうだ。なぜなら日本の税制は更地そのままで持っているより、そこにアパートなどの住宅を建てると、相続税評価額が大幅に減額となるためだ。

このように、いずれにしても住宅が大量に建設される可能性が高い。その結果はといえばおそらく地域によってまちまちで、住宅としてニーズのある地域では順調に販売や入居付けが進みそうだが、そうでないところでは販売・賃貸とも不調で周辺地域の不動産価格・賃料を押し下げる。

何より社会全体としてみれば大幅な住宅供給過剰となり、その結果は「弱い地域がさらに弱くなる」といった現象を引き起こしそうだ。とりわけ駅から遠い、築年数が古いといった競争力に欠ける住宅には、空き家増加の加速といった打撃をもたらすだろう。

なんの目安もなく必要以上に新築を造りすぎている

それにしても、東京都は2035年まで世帯数が増加し続ける見込みなのに(国立社会保障・人口問題研究所)、なぜ空き家が増加し、今後もますます増え続けるのだろうか。

空き家増加の理由は簡単だ。「必要以上に新築を造りすぎ」なのだ。以前にも触れたが、経済協力開発機構(OECD)に加盟しているような普通の国は、ほぼすべて「住宅総量目安」や「住宅供給目標」といったものを持っている。

世帯数の現状と見通し、住宅数とその質がおよそ把握できるわけだから、5年なり10年の間にどのくらいの新築を造れば良いかといった目安を立てるのはそう難しいことではない。その目安に合わせて税制や金融をコントロールしていくのである。

わが国にはこうした目安が一切なく、ただ景気対策としての住宅政策が行われている。新設住宅着工戸数が減れば景気の足を引っ張るとして、常に新築住宅促進政策が過剰に行われてきたのだ。