またジャパンネクストPTSはSBIグループが約半数の株を所有する傘下会社だ。19年10月からSBI証券は、個人投資家の売買注文に基づいて、東証などジャパンネクストPTSの巡回先の市場に先回りして売買していた。そこで約定できなくなる利用者が出てきたということだ。

今回取り上げたいのは、この取引にHFT(高速高頻度取引)が利用された点だ。一連の取引は100~300ミリ秒で行われている。まばたきが約100ミリ秒なのだから、まさに一瞬だ。1回の取引利益は銭単位になることがほとんどだが、終日HFTを続ければ莫大な利益となる。ミリ秒での取引には専用のアルゴリズム、高速演算できるコンピュータ、超高速回線などが必要だ。ここに独自の情報元、銘柄選定や予測などを行うAIが連動して、巨大資本を背景に利益を上げている。それが現在の最先端の投資の世界だ。そしてこれらは、機関投資家やファンドなどの標準装備となっている。

個人投資家は無抵抗な養分にすぎない

この捕食者を前にすれば、個人投資家は無抵抗な養分にすぎない。この現状を熟知している私の目には株式投資を副業にするという発想自体が滑稽に映る。現在の私は企業や銘柄、トレンドなどを分析する「王道の投資」を楽しんでいる。失敗もするが、それも含めて楽しめるのも自身の投資顧問会社「NEKO PARTNERS INC」が標準装備の武器を保有しているからだ。万人が用意できるものではない。

手数料が無料に近いネット証券会社が林立したおかげで株式投資家人口が急速に拡大している。だが、格安の手数料で証券会社が運営できるのかと疑問に思わない新規参入者がほとんどだ。証券会社は慈善事業ではない。SBI証券が利用者の情報をもとに先回りで利益を稼いだのは、格安で利用できる代償といえるだろう。

投資をこれから始めようとする人に会うと、「株式投資でどのくらい儲けられるのですか?」と尋ねられることが多い。リターン(利益)は投下する資本量によって大きく異なる。したがって、「いくら資金があるのか」のほうが問題だ。この種の不毛な質問をする段階で、投資に手を出すべきではない。15%の利益を得ることは比較的容易だと思えるが、私が「王道の投資」のために使う時間は、副業レベルの短時間ではない。10万円程度の資本しかないのなら、本でも買って知識を蓄える方向に投資したほうがよい。そうすれば「いくら儲かるか」という質問が、いかにナンセンスであるかも理解できるだろう。