菊谷、廣瀬、五郎丸、リーチに課された宿題

デュアルリーダーシップが成功するかどうかのカギは、選手数名のリーダーグループを作り、彼らにリーダーシップのスキルを身に付けてもらうことです。

そのために実行したのが「リーダーズミーティング」でした。

最初のリーダーズミーティングは、忘れもしない2012年11月1日。合宿のホテル前のスターバックスに、4人のリーダーが集合しました。

やって来たのは、菊谷崇、廣瀬俊朗、五郎丸歩、リーチ・マイケル選手の4人。

私が事前に得ていたチームの情報は、以下のようなものでした。

「W杯で1勝しかしたことのないチーム」
「日本代表として招集されても、断る選手さえいる」

つまり、ラグビー日本代表というチームへの帰属意識は非常に低かったのです。こうした状態を変えるためにも、まず選手がチームや仲間について興味を持つ必要がありました。

彼ら4人には、私からあらかじめ宿題を出してありました。

「質問を10個持ってきてください。チームやチームメイトに関する疑問や質問。内容は何でもいいし、答えが出なそうと思えるものでも構いません」

勝てないチームが勝者の景色を想像する難しさ

そして集まった40の質問のなかには、「このままでやっていけるのか」という不安や「皆がジャパンに誇りを持っているかわからない」というチームへの帰属意識に疑問を持つ意見もありましたが、もっとも多かったものはこれです。

「TOP10入り後の日本ラグビー界の変化は、(世界からの視線も含め)どのようなものになるのか」

エディーさんが掲げていた「世界ランキング10位」は、チームで誰も経験したことのない目標でした。

その時点で、日本代表のランキングは15位。たった5つと思われるかもしれませんが、この5つを上げることがそう簡単なことではないと、選手は皆、知っています。まさしく未知の世界への突入だったのです。

それを達成したとき、どんな景色が見えるのかが知りたいというわけです。苦しいことに取り組む「やりがい」を明確にしたかったのだと思います。

しかし、勝ったことのないチームが、どうやってその景色を見に行くのでしょうか。

そこで出された結論は、「勝つ経験をする必要がある」ということでした。

目に見えることから取り組んでいって、「勝ちの文化」を作ろう。

そう5人で決めたとき、ラグビー日本代表の新たな歴史が始まった――メンタルコーチの立場から、私はそう考えています。