生前贈与は早めに始めたほうがよい
最初に、毎年贈与契約書を作成する必要があるということだ。税務署に対して贈与の事実を証明するためにも、贈与のたびに贈与契約書の作成をすることが望ましい。
「なんで子や孫相手に、そんな堅苦しい書類を作らなければならないのだ!」
と思われたかもしれない。
税務署は、少しでも多く税金を納めてもらいたいという視点で仕事をしている。合法的に相続税の課税を免れるためには、それなりの措置を取っておくことは必須なのだ。
次に、通帳や印鑑・キャッシュカードなども、贈与を受けた子や孫に渡して自由に使えるようにしておかなければならない。子や孫名義の口座にお金を振り込んで贈与したものの、その通帳をすべて贈与した側の人が管理しているとアウトだ。
「孫である翼に贈与したお金を嫁の桜に勝手に使われては困るから」
そんな思いから孫の通帳を管理していたと説明したとしても調査官は許してくれないだろう。
3つ目。悲しいことに、人はいつ亡くなるかわからない。相続開始の3年前までの生前贈与は、相続財産に加算しなければならないという規定がある。例えば余命3カ月などと死期を知り得てから慌てて相続人に贈与をしても、全て相続税にカウントされるため節税にならないので注意が必要だ。
生前贈与をするなら、早めに始めるに越したことはないといえるだろう。
相続税が0円でも安心できない
さて、田中一郎さん一家は、生前贈与の策をとることによって相続税を納めなくてもよくなった。これにて一件落着。
……と言いたいところだが、そうは問屋が卸さない。預貯金は孫に生前贈与することができたが、持ち家がそっくりそのまま残ることになるからだ。
相続でもめるのは、必ずしも相続税をたくさん払う人ではないという統計がある。
平成29年度の司法統計年報に、遺産分割事件のうち認容・調停成立件数が遺産の価格別に発表されている。遺産額が1000万円以下の事件件数割合は32.1%、さらに5000万円以下になると75.5%となっている。この統計から、遺産額が少なくても相続人の間でもめることが多いことがわかる。
また、遺産額が1000万円以下であり、遺産が不動産だけである場合の事件の割合は45%、さらに1000万円超5000万円以下のときは22%となっており、不動産だけの遺産相続においては、遺産額が少ないほうがより争いが起きる傾向があるという統計結果も報告されているのだ。
なぜ遺産額が少なく、遺産のうちのほとんどが不動産であると、遺産分割事件に発展する件数が多くなるのだろうか。実は、もめるのは不動産の中でも実家が遺産という場合に多い。