「餅で窒息したら掃除機で吸引すればよい」は本当か

1:咳をさせる

食事の最中、急に喉を抑えて苦しがる人を見かけた時、意識があるようならば「咳をして!」と声をかけてみる。強制的に咳をすることでポロッと異物が取れることがある。突然の窒息で気が動転している患者も、この声かけで冷静に対応できる可能性が高い。

2:背部叩打(こうだ)法

1と同時に、気道の異物除去法として最もポピュラーなのが「背部叩打(こうだ)法」である(図表1参照)。うつむき加減にした患者の背中を布団叩きのような勢いでバンバン叩くのである。青アザが残りかねないぐらい叩くほうが、異物がポロッと取れやすい。

背部叩打(こうだ)法と腹部突き上げ法(ハイムリッヒ法)の解説(ウェブページ「日本医師会 救急蘇生法」より)
3:腹部突き上げ法(ハイムリッヒ法)

「2」でも窒息が解除されない場合は、「腹部突き上げ法(ハイムリッヒ法)」だ(図表1参照)。ぐったりした患者の背中側に立って、ウエストあたりで両手を廻し、利き手をグーにして拳の親指側を「へその上→みぞおち」にスライドさせることで、下からの圧力で異物がポンと取れるように操作するのである。

ただし、ぐったりした大人を抱える操作は非常に力がいるので、力のありそうな男性に任せたい。理想的には複数人で交代したほうがいい。そして、この「3」以上のケースでは、並行して119番通報したほうが無難だろう。

4:「ファイブ アンド ファイブ」

「3」でもダメだった場合、「2」に戻って5回→「3」を5回……と、背部叩打法と腹部突き上げ法を繰り返す方法を、「5アンド5」と呼ぶ。ヨーロッパ蘇生評議会などが推奨している。

5:掃除機で吸引はアリ?

「餅で窒息したら掃除機で吸引すればよい」とはいう人もいるが、医師として推奨はできない。「掃除機を口に入れる不衛生問題」「吸引圧で肺細胞に損傷を与える危険性大」といったリスクがあるからだ。

ただし、窒息物が取れずにドンドン顔色が悪くなる中、「1」~「4」の効果がなく、救急車が到着していない状況であれば試す価値はあるかもしれない。具体的にはどうやればいいのか。

「1」~「4」と並行して、掃除機と先端部に差し込む“サッシノズル”を用意する。吸引圧が低い場合には、サッシノズルの吸引口をガムテープなどで一部ふさぐことで吸引口の面積を小さくすれば、吸引圧を上げることができる。そして、舌や粘膜を吸い込まないよう、「ノズルを喉の奥に挿入してからスイッチを押す」のがコツだ。

ただし、この応急処置の目標は、呼吸であって異物除去ではない。異物除去に熱中して無呼吸状態が5分以上続くことは本末転倒である。掃除機による吸引を試しても手におえそうにない場合には、深追いせず1~2分で中止すべきである。