明らかに「消費者のため」の政策ではない

消費者の利便性を考えれば、中小小売店だけでなく、どこで買ってもキャッシュレスなら5%分が還元される、というのであれば話は分かる。ところが、中小・小規模事業者だけが対象ということになると、これは明らかに消費者を向いた政策ではなく、消費増税で打撃を受けると不満がくすぶっていた中小・小規模事業者向けの政策だ。

しかも、「消費税対策」が本当の狙いなのかも微妙である。

経済産業省は消費増税の反動減対策を政府がまとめるはるか前から、キャッシュレス化の旗を振っていた。日本の消費者は世界的にみても「現金志向」が強く、クレジットカードなどキャッシュレス化の比率が先進国の中でも極端に低いとされてきた。この点を課題視した経産省は、政策の柱としてキャッシュレス化を打ち出し、2014年6月の成長戦略などに盛り込んできた。

経産省の資料によると、2015年段階でのキャッシュレス化の比率は、韓国の89.1%をトップに、中国の60.0%、英国の54.9%、米国の45.0%などで、日本は18.4%としている。日本より比率が低い主要国はドイツの14.9%ぐらいだとされる。

経産省の「悲願」を増税対策の名目でかなえた

政府は、2017年6月に閣議決定した「未来投資戦略 2017」で、10年後の2027年までにキャッシュレス決済比率を4割程度にすることをKPI(重要評価指標)として盛り込んだ。さらに、経産省が2018年4月にまとめた「キャッシュレス・ビジョン」では、目標を前倒しで進めたうえで、現金以外の決済比率を将来的に80%に引き上げることを目指すとした。

経産省が旗を振る裏には、決済業務を拡大したいさまざまな業界の期待がある。クレジットカードの利用率向上はカード業界の悲願だし、銀行口座決済に代わるモバイル決済などは、大手通信業者や通信販売業者などが虎視眈々たんたんと狙うビジネスだった。当然、ソフトウェアの開発会社などの、決済の多様化にかける期待は大きい。

特に、中国で「Alipay(アリペイ)」や「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」といったQRコード決済が爆発的に広がると、「LINE Pay」や「楽天ペイ」などが日本でも始まった。2018年11月にソフトバンクグループの「ペイペイ」が「総額100億円 20%還元」を実施したことで、一気に日本でも電子決済が広がっていった。

今回のポイント還元政策は、こうした業界の動きを支援したい経産省の悲願を、消費増税対策という名目で予算を確保したうえで実施しているとみていいだろう。つまり、消費税対策の効果はないとは言わないが、そもそも期待されていない「建前」とみておいた方が良さそうである。