粘り強く統率力にも長けているジャック

ジャックは私と好みが似ていた。夜更けにジョギングするのが好きで、殺人もののミステリー小説を愛読し、大学フットボールのファンだった。娘がふたりいて、妻に小言を言われながらも甘やかしていた。よく笑い、とくに私のジョークによく反応した。問題を解決できるまで粘り強く取り組むタイプだった。困難にぶつかったら2倍努力し、けっしてあきらめなかった。

ジャックとうまくやっていけるのはわかっていた。彼の考え方は私にそっくりだったからだ――論理的で、経験に学び、それを新たな問題に応用する。天才はそんなふうに考えない。一緒に働く友人がほしいなら、ジャックこそ雇うべきだった。

どんなチームにも、ジャックのような人物は必要だ。ジャックは、だれもしたがらず感謝もされないこまごました仕事を一手に引き受け、チームの結束を保ってくれる。実際に10年もしたら、ジャックはすんなり私のあとを継いでチームを率いるだろう。

ジャックは私に似ていた。つまり彼は、ほぼまちがいなく「天才ではない」ということだ。

一方で、つかみどころのないジル

もうひとりのジルという女性の候補者は、別の意味ですぐに私の心をつかんだ。ジルは私のジョークに反応しなかったのだ。ジョークを言っても、とまどったような顔でこちらをじっと見つめるだけ。私の笑い声は虚しく空に響いて消えた。

気を取り直そうと、私は面接のお決まりの質問を尋ねた。「これまでの人生で最も困難だったことはなんですか? それをどのように乗り越えましたか?」

その答えとして、ジルは三つの関連していない経験を挙げた。ほとんどが個人的な、トランクにノートパソコンを入れていた車を盗まれたといったことだ。大学も大学院も退屈で、あまり興味を持てないと話した。成績は中の上、奨学金がかろうじて打ち切りにならない程度だった。

それでも彼女を面接したのは、GRE[訳注:アメリカの大学院に入るための共通試験]の点数が満点に近かったのと、大学院の専攻が生化学なのに統計学の論文を発表していたからだ。ジルは研究活動で有名な大学ではなく、カトリック系の小さなカレッジに通っていた。

ユダヤ人のジルがそのカレッジを選んだのは、中世文学のプログラムが充実していたからだった。選択科目でその分野を勉強したかったらしい。ジルは哲学もバーチャルゲームも同じように愛していた。

ジルがロールプレイングゲームのためにパソコンをカスタマイズしたと言ったとき、私はノートパソコンをなくすことが彼女にとってどれだけの災難だったかを悟った。そんなことに気づいただけでも、思わずガッツポーズをしたくなった。それほどその面接は大変だったのだ。