“暗黒大陸”といわれてきた臓器がある。小腸である。検査、治療の光が入らなかったので、その別称がついていた。そこに今、大きな転機が訪れた。それは、カプセル内視鏡の登場である。
2007年10月に、イスラエルの会社のカプセル内視鏡が小腸疾患に対して保険適用となった。そして、2008年10月、今度は日本製のカプセル内視鏡が保険適用に――。イスラエルのものは長さ26ミリ、直径11ミリ、重さ3.45グラムとビタミン剤を少し大きくしたカプセルの中に、超小型カメラが内蔵されている。
カプセル内視鏡は、たとえば、血便などの原因を調べる際に使われる。内視鏡で食道、胃、大腸を診ても問題がない場合、残るは小腸。このとき、カプセル内視鏡を使った小腸検査が行われる。
患者は8~12時間前から絶食するものの、麻酔も造影剤も必要なし。カプセル内視鏡から送られる情報を受信する「センサアレイ」を腹部に貼りつけ、情報を記録するデータレコーダー付きベルトを装着する。そして、カプセル内視鏡を水で飲み込み、あとは事務系であれば仕事をしてもかまわない。4時間後からは水やちょっとした食べ物も大丈夫。
自由行動の患者を尻目に、カプセル内視鏡は1秒間に2枚、8時間で静止画像を約5万5000枚撮り続ける。撮影が終了したカプセル内視鏡は便とともに排泄される。が、そのまま捨ててはいけない。日本では医療機器なので、容器に入れて医師に戻す。
記録された画像はダウンロードされ、医師により読影。30~60分程度で終了する。ただし、カプセル内視鏡が小腸に滞留してしまうケースもまれにある。その場合、ダブルバルーン内視鏡が救出にあたる。
1998年に自治医科大学附属病院消化器内科の山本博徳教授(現在)が開発したのがダブルバルーン内視鏡で、小腸内の検査も治療もできる内視鏡である。カプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡が開発されたことで、小腸に光が入った。
カプセル内視鏡研究会が185人の患者にカプセル内視鏡検査を行った調査報告によると、73%にあたる135人が「原因不明消化管出血」だった。そのうち70人がカプセル内視鏡によって確定診断に結びついた。原因不明の消化管出血の原因は、「潰瘍・びらん」が最も多くて24人(34.3%)、次いで「血管異形成など血管性病変」18人(25.7%)、「腫瘍性病変」12人(17.1%)、「クローン病」7人(10%)など。
一方、ダブルバルーン内視鏡は検査も治療もできる。治療としては、小腸内の「焼灼(しょうしゃく)」「クリップ止血」「拡張術」「ステント留置」「異物回収」「ポリぺクトミー(ポリープ切除)」などだが、それ以上に、外科手術をアシストすることも行われている。
ダブルバルーン内視鏡が治療も検査もできるなら、カプセル内視鏡はいらないのでは……と思う人もいるだろう。が、医療現場では両方が必要とされている。この2つの小腸内視鏡によって、病気が少ないといわれていた小腸にも、少ないながら病気があるとわかり、大いに研究・治療が盛りあがっている。
【生活習慣のワンポイント】
栄養を吸収する要が小腸。だから、小腸がなくては人間は生きられない重要な臓器である。その小腸はまだまだ研究途上とあって、生活習慣ウンヌンはよくわかっていない。基本的には三食規則正しくバランスのよい食事で、適度な運動。十分に睡眠をとってストレスを解消することである。ただ、少し食事について紹介すると、脂肪の少ない良質のタンパク質がよい。白身魚、大豆、卵などだ。香辛料やコーヒーなどの刺激物は控え気味がいいようである。