リストラの嵐が再び吹き荒れようとしている。

「100年に一度の危機」「暴風雨」の回避を合言葉に2001年以来の雇用調整が始まっているが、安易な人員削減がもたらす副作用は決して小さくない。

会社を去らざるをえない社員も辛いが、残った社員の胸にも「次に切られるのは自分ではないか」といった疑心暗鬼が渦巻き、職場の連帯感にヒビが入り、社員と会社の信頼関係や一体感の喪失という負の連鎖を招来するリスクを伴う。モチベーションの回復や失われた信頼関係を取り戻すことができないまま再編の渦に飲み込まれ雲散霧消した会社も過去にはあった。

安易なリストラの断行に「待った!」をかけたくなるのが『日本の優秀企業研究』だ。経営者の多くが指南書とする著名な本だが、優秀企業の条件の一つに「世のため、人のためという自発性の企業文化」を挙げている。つまり「お金(利益)」や「株主」のためではなく、「顧客」のために仕事をするという使命感、自発性といった規律を保持している会社だ。そして自発性の文化の根底には経営者と社員の運命共同体的意識が根ざしていると喝破する。

運命共同体的意識を持った社員が集まれば、会社が少々傾いても、給料がカットされても、危機の際の復元力に優れていると指摘し、運命共同体的意識を涵養する要素の一つとして「長期雇用」を挙げている。本書は平成不況下の好業績企業を分析したものだが、いまだに色褪せていないばかりか、この不況期に対応する経営者の真価を改めて問うている。

『働きがいのある会社』は米経済誌「フォーチュン」に毎年掲載される「働きがいのある会社ベスト100」の日本版だ。働きがいのある会社とは「信頼関係の高い会社」であり、経営者と管理者、一般従業員の関係において、それぞれに信頼の経営とマネジメントができている会社という。また、会社と社員の信頼関係は、一朝一夕で出来上がるものではなく「失われた信頼関係を組織として復活させるには3年から5年は必要」と指摘する。

本書には従業員調査をベースに選ばれた日本のベスト25社が掲載されているが、たとえば5位にランクインしたアサヒビールの社員は会社を信頼する理由として「解雇による人員削減をしない」ことを挙げている。会社と社員の信頼関係の絆を維持するのは必ずしも「長期雇用」だけではないが、02年以降の好況期に流行した「社員重視」経営をかなぐり捨てるのはあまりにもリスクが大きい。

個別企業だけではない。日本全体でも“派遣切り”に象徴される非正規社員の大量解雇や格差問題の解決が社会的課題になっている。『ワーク・フェア』はスウェーデンやイギリスの実践をモデルに日本型の雇用ビジョンを提示する。職業訓練の重視や同一価値労働・同一賃金原則など示唆に富む指摘も多い。実現には国民的議論も必要であるが、100年に一度の危機と認識するのであれば、将来を見据えた抜本的な改革に取り組むべきときだろう。

『日本の優秀企業研究』 新原浩朗著 日経ビジネス人文庫 本体価格762円+税<br>
『働きがいのある会社』 斎藤智文著 労務行政 本体価格2381円+税<br>
『ワーク・フェア』 山田 久著 東洋経済新報社 本体価格1800円+税